これまで数々のピンチのときに、漫画の力に助けられたと語り、現在、日本のポップカルチャー・コンテンツを世界に広げるべく活躍中の保手濱彰人さん。著書『武器としての漫画思考』(PHP研究所)がベストセラーとなり、今後は漫画を活用した、人財育成にも注力すると語る保手濱彰人さんにお話しを伺いました。 聞き手:猪口真
猪口 その後、ビジネスで経営の危機も経験されています。

保手濱 30歳になる頃、けっきょくビジネスはうまくいかず、当時70人いた社員は全員辞めてしまいました。社員ゼロ、売上もゼロ、事業も何もなく、残ったのは借金3億円。そのうち半分は個人保証が付いています。先輩経営者たちに相談すると、全員が、「一度会社を畳んで自己破産したほうがいい。しばらくは経営できなくなるが、リセットするのが合理的だ」という答えでした。しかし、昔に父親から言われて、印象的だった言葉は違っていました。僕の祖父も経営者だったのですが、最終的に会社が傾いています。しかし、それを見てきた父は、「手形の不渡りを除けば、会社が強制的に倒産させられることはない。会社を潰すということは、自らの手で殺すことであって、経営者の意思決定でしかできないもの。自分で決めない限り、会社は死なないんだよ」と言いました。
その頃に思い出したのが、『賭博黙示録カイジ』(福本伸行・講談社)です。多重債務者で社会の底辺にいたカイジは、あるときエスポワール号という船に乗せられ、命がけのギャンブルや強制労働を強いられることになります。それでもカイジは最後まで諦めません。高層ビルの間に渡された鉄骨を進む「鉄骨渡り」で、最後に生き残ったカイジは、ただうつむいて終わるのではなく、わずかでも視線を上げて周りを見渡した瞬間、救いの道があることに気づきます。その感覚が自分の中にもありました。
もうひとつ影響を受けたのが、同じく福本伸行先生の『銀と金』(福本伸行・双葉社)という素晴らしい作品です。作中で、銀王と呼ばれるフィクサーが、「今回の勝負は合理的ではない。絶対に引いたほうがいいのに、なぜやるのか」と、部下から問われる場面があります。それに対して銀王は、「ここで俺が引いたら、俺は俺じゃなくなる」と答えます。短期的には合理的かもしれないが、その瞬間から、自分ではない存在として生きないといけない。それを読んだとき、すごく分かるような気がしました。当時の僕にとって、会社を畳むのは簡単な選択肢でした。自分でリセットすれば楽になる。だけど、その選択肢を選べば、おそらく自分が自分ではなくなってしまう。世界一を目指す人間には二度と戻れない。そう思い、会社を潰すことはしませんでした。これも漫画から学んだことです。
猪口 その後、事業の方向性を大きく変えられますね。
保手濱 20代の頃は、自分が本当に好きな漫画やアニメとは関係ない分野で、「これをやれば稼げる」という短絡的な発想でビジネスをしていました。その結果、うまくいきませんでした。そこで改めて立ち返ってみると、自分は漫画で人生を救われてきましたし、何より漫画があらゆるものの中で一番好きでした。それで30歳のとき、漫画・アニメの事業を立ち上げたのです。すると、その事業は5年で売上30億円まで成長し、うまく回っていくようになりました。
関連記事
2009.02.10
2015.01.26