ビジネスの基本とされてきた「PDCA」が、時代遅れだと言われ始めて久しい。「これからはOODAだ」「いやSTPDだ」と、新しいフレームワークが次々と提唱されている。しかし、長年企業の改革現場で汗をかいてきた者からすれば、これらは「言葉遊び」に過ぎないように映る。
「Plan」という箱の中身は泥臭い
大手企業の業務改革ともなれば、関係部署も多く、複雑怪奇な業務フローとそれにまつわる諸条件を紐解く必要がある。「As-Is(現状)」を正確に把握せずに計画を立てることなど、自殺行為に等しい。
我々は無理やりにでも、皆が共通言語として知っている「PDCA」という名札の箱に当てはめていただけだ。
その箱の中身、つまり実態としては、観察も分析も泥臭いほど徹底的に行っていたのである。現在、弊社(パスファインダーズ)の本業である事業戦略策定においても、この泥臭いプロセスは何ら変わりがない。
実際問題として、業務改革に限らず、ある程度のサイズ感のある経営課題に取り組むことになれば、次のようにかなり多くのステップを経て検討せざるを得ないのが現実だ。
【マネジメントサイクルの実像(11ステップ)】
1.~ 7. (前述の計画・分析フェーズ)
8. 実行(試行の実施を含む)
9. 実行結果の検証・分析
10. 検証・分析に基づく実行計画へのフィードバック・修正
11. 続けるべきか、次段階に進むべきか、転進(ピボット)すべきかの判断
(→これ以降は最初に戻る)
あまりに多段階だと人間の頭には残らない。だからこそ先人たちは、人々にマネジメントサイクルのポイントを意識してもらえるよう、あえてこの複雑な工程を4文字程度に区切ってパッケージングし、訴求に工夫を凝らしてきただけなのだ。
PDCAが本当に伝えたかった「魂」
だからこそ、「PDCAには観察や分析がないじゃないか」と鬼の首を取ったように主張する人を見ると、「何を今さら」と思わざるを得ない。その批判は、PDCAという「用語」の字面しか見ていない証拠であり、現場での運用実態を知らない机上の空論だ。
もっと言えば、PDCAの提唱者たち(デミング博士やシューハート博士ら)が本当に伝えたかったポイント、その意図は、「Pから始めること」ではないはずだ。彼らの真意は、「Do(実行)のあとに、しっかりとCheck(評価)を行い、Action(改善)につなげること」にこそある。
どれだけ綿密に計画(Plan)=仮説を立てたとしても、不確実なビジネスの世界では、必ず想定外のことが起こる。計画時には見通せなかった「穴」や「歪み」が必ず生じる。
だからこそ、やりっ放しにせず、結果を検証し、次につなげる。このフィードバックループこそが、品質管理や業務改善の「魂」である。新しいアルファベットの並び順を覚える暇があるなら、まずは目の前の仕事で「Check(評価)」と「Action(改善)」が機能しているかを問い直すべきだ。
アルファベットの並び順にこだわるな
OODAでもSTPDでも、呼び名は何でもいい。重要なのは、そのサイクルが現場で回り、成果を生んでいるかどうかだ。その意味で「PDCAサイクル」というのは「マネジメントサイクル」の単なる言い換えに過ぎない。
「PDCAは古い」という言葉に踊らされ、本質を理解しないまま新しいフレームワークに飛びついても、結局は何も変わらない。マネジメントの本質は、字面の解釈ではなく、仮説の構築と検証、実行と修正のプロセスそのものにあるのだから。
業務改革
2019.10.16
2019.11.06
2019.12.26
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2023.08.23
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パスファインダーズ株式会社 代表取締役 社長
「世界的戦略ファームのノウハウ」×「事業会社での事業開発実務」×「身銭での投資・起業経験」。 足掛け38年にわたりプライム上場企業を中心に300近いプロジェクトを主導。 ✅パスファインダーズ社は大企業・中堅企業向けの事業開発・事業戦略策定にフォーカスした戦略コンサルティング会社。AIとデータサイエンス技術によるDX化を支援する「ADXサービス」を展開中。https://www.pathfinders.co.jp/ ✅第二創業期の中小企業向けの経営戦略研究会『羅針盤倶楽部』を主宰。https://www.facebook.com/rashimbanclub/
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