リクルート事件という冤罪を生んだ世の中

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2024.02.21

経営・マネジメント

リクルート事件という冤罪を生んだ世の中

日沖 博道
パスファインダーズ株式会社 代表取締役 社長

今、リクルート事件を翻って見ると、当時とは全く違って見える景色がある。本来なら概ね真っ当な行為に対し、世間の嫉妬、マスコミの煽り、検察の功名心が寄ってたかって一大疑獄事件に仕立て上げた、日本特有の情けない構図が浮かんでくる。

ではなぜ、この事件は「冤罪」の可能性が高いといえるのか。端的に言うと、この事件の大半において、贈収賄事件であるための条件「職務上の権限がある人物に対し、利益供与と引き換えに便宜を図ってもらう」という構図が成立しないからである。

江副氏がリクルートコスモスの未公開株を譲渡したその見返りに、相手から何か便宜提供を得たという客観的な事実はない。事の順番はむしろ逆で、リクルートという新興企業が苦労しながらも成功し、ビジネスを拡大する過程でお世話になった人々に対するお礼の意味で(または「今後ともよろしく」といった接待感覚で)、江副氏個人またはリクルートが持つ株式を譲渡したり、リクルートコスモスが第三者増資を割り当てたりしたのだ。

彼らは政治家に対しては「タニマチ」然と、与党議員への寄付のつもりでいたとしか思えないほど広汎な範囲にバラ撒いている(もちろん、公職選挙法の裏を掻くグレー行為ではある)。その意味で、後述するNHKの番組の中で当時の検察官がいみじくも吐露している「検察が言っちゃいけないんだろうけど、犯意が薄いよね」という表現はいかにも妥当である。

小生の想像ではあるが、江副氏としては政官財界の有力な人々にバラ撒くことで、その一部の人が公開後に全株を売り抜けずに多少残してもらえば彼らは安定株主となり、ゆくゆくはリクルート社もエスタブリッシュメントの一員になれるかも知れないという淡い期待もあったのではないか。

そして肝心な点として、当時も今も、将来の上場または店頭公開を目指す株式を有償で取得することは違法でも何でもない、正当な経済行為なのだ(ただし上場または店頭公開の1年前以内だと上場・公開そのものが危うくなるので避けるよう指導されてきたらしい)。

そしてこの件で収賄側とされる人々の大半は、リクルートコスモスの未公開株を、江副氏やリクルート社から買うか第三者割当増資に応じるなどして取得している。当座の持ち合わせがない人には、リクルートグループ会社のファーストファイナンスが融資までしている。

事件発覚当時、マスコミはこぞって「濡れ手に粟」という表現でこの未公開株の取得による「錬金術」を非難した。しかし冷静になって考えると、取得者は既に公開された株式を単純に割安に手に入れた訳ではないのだ。未公開株ならではのリスクに応じたディスカウント(割引)がなされた株価の株式を正当に有償で取得しているのだ。

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日沖 博道

パスファインダーズ株式会社 代表取締役 社長

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