ホタル乱舞は環境破壊の赤ランプ:大きな文明論の視点から

2023.06.03

ライフ・ソーシャル

ホタル乱舞は環境破壊の赤ランプ:大きな文明論の視点から

純丘曜彰 教授博士
大阪芸術大学 哲学教授

/かの「脳学者」茂木健一郎だ。大衆向けの新聞では、こういう通俗的で浅はかな感動ポルノが、自分ではなにも調べない、考えない読者たちに受けるのか。/

しかし、自然の連鎖は人知を超える。ふつう、水は中性、ph7。とはいえ、雨は、空気中の二酸化炭素を吸収して、もともとph5.6程度の酸性に傾いている。くわえて、近代化とともに、蒸気機関から工場の煤煙、車の排ガスまで、人間は大量の二酸化硫黄や窒素酸化物などを空中に撒き散らしてきた。そのせいで、いまやいわゆる酸性雨が問題となっている。日本の場合、いくら国内の公害を抑制しても、隣国の影響もあって、平均でph4.8くらい。場所によっては、もっと濃い。これが日本の山に降り注ぎ、川を流れ落ちる。

コンクリは、消石灰(水酸化カルシウム)に火山灰などの混合剤を混ぜ、砂利などの骨材を固めたもの。基本的に耐水性があるが、酸性水には溶け出す。だから、酸性雨によって、戦前から戦後にかけて大量に作った山の堰堤から川の護岸まで、骨材を残してカルシウムを溶かし砕いて、ボロボロに。このスキマに水草や雑草が生え、その根が堰堤や護岸を浸食し、さらに深くまで溶解を進める。

たしかに山はいまだ針葉樹だ。落葉は無い。ところが、水田の肥料や農場の屎尿。これもまた、余剰や漏失が川に流れ出る。カルシウムと栄養、そして水草や雑草。ここにカワニナが異常発生。劣化し老朽化しコケむしたコンクリの川岸に大量のホタルが群舞。我々は、これを喜んでいいのか。日本の浅知恵、その場しのぎの最期の一幕。

「農学者」の片野先生は、あまり多くを語ろうとしなかった。研究も、米作りとともに一年で一歩。それで、短期で次々と数ばかりの論文を書き散らすバイオの連中に、ずいぶんな目に遭わされていたようだ。まだまだ、私にはわからないことがいっぱいだよ。しかし、楽しそうに、そう言っていた。ろくに調べず、考えず、大衆の心を惑わすだけの「脳学者」とは大違いだ。だが、片野先生は、十年前に亡くなった。私は、尊敬すべき先輩に出会えたことを生かせているだろうか。

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純丘曜彰 教授博士

大阪芸術大学 哲学教授

美術博士(東京藝大)、文学修士(東大)。東大卒。テレビ朝日ブレーン として『朝まで生テレビ!』を立ち上げ、東海大学総合経営学部准教授、グーテンベルク大学メディア学部客員教授などを経て現職。

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