可能世界論vs置換世界論:ルービックキューブからの思想

画像: 純丘先生御愛用の品々

2023.05.13

ライフ・ソーシャル

可能世界論vs置換世界論:ルービックキューブからの思想

純丘曜彰 教授博士
大阪芸術大学 哲学教授

/可能性は無限かもしれない。だが、現実は閉じている。結局のところ、変革は置換にすぎない。だから、まず守るべきものを待避して保護。それから行動。そして、その結果で崩れたものや待避していたものを新たな状況に再適合させる。閉じた置換世界では、この三つのステップが必要だ。/

ところで、ルービックキューブだ。あれは、群論の最たるもの。ブロックを回転させるだけなのだから、ブロックがキューブの外に出て行くことは無い。ふつう、あれは面を色を揃える遊びと思っているが、色はブロックの「名前」にすぎない。実際は、6個のセンターと12個のエッジ、8個のコーナーの3種類のブロックがあって、それぞれのブロックが1つ、2つ、3つの色で「ネーミング」され、絶対的な場所が決まっている。重要なのは、まずセンターは動かない。エッジはエッジにしか、コーナーはコーナーにしか移動しない、ということ。

そして、ルービックキューブがパズルなのは、ブロックの縦横9つが層としてくっついているために、エッジやコーナーは残りの7つ(センターは動かない)も移動してしまうから。(センター層を回すのは、両サイド層を回したのと同じ。)このために、目的のところに目的のブロックを移動させようとしても、ほかのブロックまで移動して、すでに揃っていたところまで崩れてきてしまい、なかなか全部を思ったとおりには並べられない。

そこで、初心者向けの方法としては、あるブロックを目的のところまで移動するには、まず既成の部分を待避させ、目的のブロックを目的の場所に移動し、その上で崩れたところや待避したところを元に戻す、という三段階の手順を踏む。このとき、最終的には、目的の場所にもともとあった、まちがっているブロックと、目的のブロックとの位置が置換され、目的のブロックが目的の場所に移動するとともに、目的のブロックがもともとあったところにまちがっていたブロックが移動する。

人生も、これと同じ。閉じた無限の可能性の中でいくらさまよっても、どうにもならない。それよりも、いかに身近を快適に配置するかが大切だ。だが、無限の可能世界がある、なんて、ポジティブに前向きな展望しか持っていないと、これまで築いてきた足元が崩れる。錬金術師の等価交換ではないが、なにかを得れば、どこかにツケが回る。たとえば、賃貸より持ち家だ、と夫婦でムリをして家を買うのもいいが、そのムリの結果、夫婦仲が悪くなって離婚、とか。大企業で実績と人脈と信用を築いて独立したものの、だれも仕事をくれなくなった、とか。

可能性は無限かもしれない。だが、現実は閉じている。結局のところ、変革は置換にすぎない。なにかをなにかに置き換えているだけ。目的の物事の変革にばかり目を奪われていて、それで同時に置き換えられてしまうものの側への気配りを忘れると、結局、なにも進まないどころか、これまでに積み上げてきたものまで崩れ去ってしまう。

まず守るべきものを待避して保護。それから行動。そして、その結果で崩れたものや待避していたものを新たな状況に再適合させる。閉じた置換世界では、この三つのステップが必要だ。

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純丘曜彰 教授博士

大阪芸術大学 哲学教授

美術博士(東京藝大)、文学修士(東大)。東大卒。テレビ朝日ブレーン として『朝まで生テレビ!』を立ち上げ、東海大学総合経営学部准教授、グーテンベルク大学メディア学部客員教授などを経て現職。

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