たそがれとかわたれ:食い物中毒の向こう側

2022.11.24

ライフ・ソーシャル

たそがれとかわたれ:食い物中毒の向こう側

純丘曜彰 教授博士
大阪芸術大学 哲学教授

/食えば、幸せ。よけいなことは考えずにいられる。食い物は、もっとも手軽で、合法的な現代の「麻薬」だ。だが、しばし食い物のことは忘れて、遠くを眺めて、思いを巡らしてみてはどうなのだろう。夕暮れ時、日の出前、日本の景色は美しい。店に飛び込み、朝食に食らいつく前、ちょっとこらえて外に出て空を見上げてごらん。忘れてしまっていた現実の自分がそこに立っているから。/

年のせいなのか、時代のせいなのか、最近、世間が遠く感じる。ほかの人は、どうなのだろう。民主主義、なんて言ったところで、どこかの悪い人たちがかってにやっていることで、銃弾でもぶちこまないと、話さえ聞いてももらえないのが実情。むかし自分がその中にいたテレビも、いまはよく知らないタレントたちが身内宣伝のおべんちゃら。ルールもわからないスポーツで絶叫しているのが、薄ら寒い。まして、ネットは、検索サイトやポータルサイトが恣意的に選んで油を注いだ炎上話題に乗せられるばかりで、まったく気が乗らない。

日本は「平和」だ。大局的に見れば、かなりクリティカルな状況にもかかわらず、デモや騒乱も無い。話題と言えば、ひたすら食い物。テレビも雑誌も、ひたすら食い物。スマホにまで、大量の食い物クーポンがかってに送りつけられてくる。ほんとうにそんなにひもじいか? むしろ食べ過ぎじゃないのだろうか。

かつて、タバコが国策だった。クリミア戦争、ナイチンゲールの昔から、ニコチンが脳の血管を収縮させ、痛みも悩みも忘れられる。そして、酒。ビールと焼酎のちゃんぽんで、酔ってしまえば、仕事のわだかまりも、家庭内の気がかりも、あすの朝まで消えて無くなる。さらに海外では、いまや大麻だと。リラックスした高揚感で、ラリラリハッピー。もっと単純に、ジェットコースターで振り回したり、人混みのお祭り騒ぎで興奮させたりしても、アドレナリンとエンドルフィンが噴き出して、幸福感を味合わせてくれる。

だが、食い物も、似たようなものじゃないのだろうか。ものを食べれば、胃腸に血が行く。脳から血が引く。健康のことなど度外視して、ラーメンやケーキのように、これでもかというほど小麦と油と砂糖をぶち込んだ料理やスィーツを食わせれば、一気に血糖値が上がって、うーん、うまい、うまい、ぶひぶひ、と鳴きながら、際限無く食らいつく。食えば、幸せ。よけいなことは考えずにいられる。もっとも手軽で、合法的な「麻薬」だ。

衰退救いがたい米国中西部のようすを漏れ聞くに、あれはやはり国策なのかな、とも思う。ピザが主食で、ポテトが野菜。それをコーラやビールで胃に流し込む。車から降りても自力では立てないような巨漢連中が、電動カートにはみ出るほどの尻を乗せ、大型スーパーの中で、また冷食を買いあさる。まあ、あれでは、デモや騒乱も起こしようがあるまい。それどころか、異常体型の子供たちまで、死に絶えるのも、そう遠くはなさそうだ。

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純丘曜彰 教授博士

大阪芸術大学 哲学教授

美術博士(東京藝大)、文学修士(東大)。東大卒。テレビ朝日ブレーン として『朝まで生テレビ!』を立ち上げ、東海大学総合経営学部准教授、グーテンベルク大学メディア学部客員教授などを経て現職。

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