​サンシェードのかけ方、あるいは、負けるが勝ちの思想

画像: 山梨県信玄堤

2023.07.18

ライフ・ソーシャル

​サンシェードのかけ方、あるいは、負けるが勝ちの思想

純丘曜彰 教授博士
大阪芸術大学 哲学教授

/昔の知恵者は、あえてスキマだらけの霞堤を作った。あちこちで徐々に溢れることによって、避難する時間を稼ぎ、全体の被害をおだやかに抑え、早期の復旧を図る。絶対の安全など、人知の及ぶところではない。頑丈な建物、強固な都市ほど、人の慢心も加わって、脆い。/

西日が暑い! 仕事も飽きたので、日が沈んでから、真っ暗になる前に、急いで小さなベランダにシェードをかけた。

でも、これも、毎年が試行錯誤。最初、屋根と屋根の間全体に届くほど大きい、きちんとしたテント生地のオーニングを買って、ばっちりきれいに張った。ところが、これがちょっとした風でも、ぶんぶんと煽られ、固定した両側の屋根まで揺らす。だいじょうぶか、と思っていたが、強烈な紫外線も喰らって、夏の後半の台風の予兆だけで、かんたんに破れた。でも、あれが破れなかったら、本番の台風で、屋根の方を大きく壊していただろう。

で、年来、いろいろ工夫して、最終的には、先端こそ巻き上げられるロールオーニングを門型の柱にするが、これと壁との間は、百均のぺらぺらすかすかの安物シェード(網目)をパッチワークにして埋めることに。つまり、それぞれのシェードはおたがい四隅だけで繋がっていて、それぞれの辺と辺はぱかぱかに開いたまま。こんなのでは雨は防げないが、じゅうぶんに陽は柔らかくなる。粗い網目だからシェード自体が風を逃がすし、それより強い風なら、シェードとシェードの間が大きく開いて、抜けていく。

留め具も、百均のカラビナと結束バンド。これなら、いざというときに、すぐ外せ、外すのが間に合わなくても、結束バンドが瞬発的な力でかんたんに切れる。つまり、あちこちがかんたんに壊れることが大切。どうせどれもこれも安物の消耗品ばかり。家の屋根を壊して、大ごとになるよりずっとまし。

昔の知恵者は、一気決壊の破局危機を避けるために、あえてスキマだらけの霞堤(かすみてい)を作った。これは、川の堤が完全にはつながっておらず、上流側に向けて、両岸がハの字に開いている。水量が増すと、このスキマから上流側両岸の水防林に逆流させて溢れ出させ、下流に入っていく水量が限界を超えないようにする。もちろん、これでは、洪水を「防ぐ」ことはできない。だが、あちこちで徐々に溢れることによって、避難する時間を稼ぎ、一カ所に突然に決壊が襲いかかることを無くし、全体の被害をおだやかに抑えることができる。そして、水防林に溢れた水を後から徐々に流し出して、早期の復旧を図る。

庭先の小さな風でさえ防げないのだ。天変地異級の大災害を人間の力で完全に封じ込めることなどできるわけがない。頑丈な建物、強固な都市ほど、人の慢心も加わって、脆い。絶対安全などというものは、人知の及ぶところではない。つねに天地偶然への畏れを持って、万が一のときにでも、その発生を遅らせ、被害を抑える。災害を遠ざけるのではなく、日常の中で突然に起こりうることとして、身近に備える。

今日は新月。経験則にすぎないが、台風や熱波に豪雨などという天候不順に続く新月や満月は、その数日後に大地震を招くことがある。我々は、考える葦として、心と身の柔軟さで備えていたいものだ。

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純丘曜彰 教授博士

大阪芸術大学 哲学教授

美術博士(東京藝大)、文学修士(東大)。東大卒。テレビ朝日ブレーン として『朝まで生テレビ!』を立ち上げ、東海大学総合経営学部准教授、グーテンベルク大学メディア学部客員教授などを経て現職。

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