「牛乳ショック」は誰のせい?誰が対処すべき?

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2023.02.22

経営・マネジメント

「牛乳ショック」は誰のせい?誰が対処すべき?

日沖 博道
パスファインダーズ株式会社 代表取締役 社長

国の生乳増産政策に協力した北海道の酪農家が、牛乳価格と子牛価格の暴落にあえいでいる。この政策を推し進めた政府・農水省、それを懇願した乳業メーカーは、この事態の収拾に責任がある。

ご存じだろうか。日本の生乳の生産の半分以上を担う酪農王国・北海道が今、過去最悪レベルともいわれる「牛乳ショック」に直面していることを。

北海道の酪農家では、生乳の廃棄処分をせざるを得ない事態が起きている。生乳の生産量を減らすよう農協から求められ、900頭あまりの乳牛を抱える牧場だと1日 1~2トンの生乳の廃棄を始めているそうだ。

搾りたての生乳をなぜ廃棄しなければならないのか。その背景にあるのが国の政策だ。バター不足が問題になった(ご記憶の方も多いかと思う)ことを契機に2014年、国は生乳の生産を増やすため補助金をつけて大規模化を促した(「畜産クラスター事業」と呼ばれる)。

国の後押しを受けて道内の酪農家らは大型投資を進め、増産体制へと舵を切った。こうして全国の生乳の生産は733万トン(2014年度)から764万トン(2021年度)へと増加に転じた。

しかし2020年からは新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、まず学校給食が減り、さらに外食や観光需要が落ち込んだことで、今度は一転して生乳の供給が過剰となった。

乳業メーカーは、日持ちのしない生乳を、保存が利く脱脂粉乳に加工することで当面の対応をした。しかし脱脂粉乳の在庫量が去年最高水準に達したため、酪農家は生産の抑制をしなければならない事態に陥ったのだ。

牧場経営者の方は「やるせない。なんで捨てなくちゃならないんだ。増やせ増やせと言われて一生懸命搾っていたのに…。工業製品と違って、簡単に減らせるものではない」と悲嘆に暮れている。

去年11月、国は生乳の生産抑制のための緊急支援事業を発表した。牛を早期淘汰した場合、1頭あたり15万円の助成金を国が交付するというものだ。これにより4万頭の削減を目指しているらしい。

この国の方針は各地の農協に打診された時点で大いに反発を呼んでいる。去年9月に釧路市で開かれた集会では疑問や反対の声が次々と噴出していたそうだ。「数年前の生乳不足時に、増産要請に応える形で投資をしたのに梯子を外され、自己責任と切り捨てられてしまっては、これから先、誰が(返却するのに掛かるのが)30年もの借金を背負って設備投資を決断できるのか」というのが代表的な声だ。きわめて当然だ。

酪農家と、需要家である乳業メーカーの取引関係はシンプルではない。個々の酪農家が「経営が苦しいから」と納入価格を簡単に引き上げることはできない、特有の業界事情があるのだ。牛乳やバターなどの原料となる生乳は、地域別に農協などが作る指定団体が集め、全国の乳業メーカーに販売する「一元集荷体制」が組まれている。乳価は指定団体と乳業メーカーの交渉で決まるため、酪農家は妥結した価格を受け入れるしかないのだ。

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日沖 博道

パスファインダーズ株式会社 代表取締役 社長

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