「牛乳ショック」は誰のせい?誰が対処すべき?

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2023.02.22

経営・マネジメント

「牛乳ショック」は誰のせい?誰が対処すべき?

日沖 博道
パスファインダーズ株式会社 代表取締役 社長

国の生乳増産政策に協力した北海道の酪農家が、牛乳価格と子牛価格の暴落にあえいでいる。この政策を推し進めた政府・農水省、それを懇願した乳業メーカーは、この事態の収拾に責任がある。

酪農家の経営悪化などを受け、去年11月から飲用牛乳向けの乳価は既に10円値上げしており、バターなどの加工向けも今年の4月から10円値上げとなる予定だが、赤字を解消するにはほど遠いという。

しかし乳業メーカーには産業のサプライチェーンを維持する責任があるはずだ。自分たちが国を動かしておいて、増産に協力してもらった北海道の酪農家たちを「自己責任だ」と切り捨てるような仕打ちを示すのなら、次の供給不足の波が来た時にはリスクを取って増産に協力してくれる酪農家なんて現れるはずがない。

そしてはっきり言って、農水省の施策は「見当違い」だ。乳牛の削減に補助金を出すのではなく、乳業メーカーや飲食チェーンにもっと多く引き取らせて、牛乳だけでなくチーズなどの乳製品を増産させたり、国内の飲食業に乳製品を多く使うメニュー開発を促したりする際に、補助金を出すべきなのだ。コロナ過が収束しつつある上に、卵や肉が高騰している折、国民の貴重なたんぱく源を確保できる策を考えるのが彼らの役目ではないか。

実は牛乳だけでなく、牛そのものの価値も暴落している。NHKの取材によると、去年6月の時点で1頭約14万円で買い取られていた肉用の子牛の価格が、9月には5000円に暴落したそうだ。10月には、同じ牧場で家畜の流通業者に引きとってもらった子牛の場合、体重が軽かったこともあり、ついた値段はわずか1000円。種付けから出荷までかかった経費は約3万円なのに、だ。

なぜこんな事態になっているのか。牛が乳を出すためには継続的に子牛を産ませる必要がある。メスの子牛の多くは乳牛として育てられるのだが、オスや交雑種は肉牛として畜産農家に売られる。子牛の売却は酪農家の収入の柱の一つとなっている。

しかし先に触れたように、大量のエサを与えて牛を育てる畜産農家も飼料の高騰で経営が苦しく、子牛を買い控えるようになっている。飼料高騰と子牛価格の暴落が重なり、子牛を育てるビジネスが成り立たなくなっているのだ。

去年、経営を諦め離農したケースは北海道だけで200戸近くにのぼると見られる。意欲ある若い酪農家までも退場を迫られる事態に陥っているのだ。この辺りは、NHKの報道番組で詳細に伝えられていたが、せっかくの事業承継がとん挫してしまう様は観ているこちらも胸を痛めるものだった。

子牛を育てる国内の酪農家が大量に離農してしまえば、当然ながら近い将来には乳牛も肉牛も育成体制が不足して、牛乳および牛肉の国内への供給は細り、(海外ではさらにインフレが進んでおり、かつ長期的な円安の影響を考えると)牛乳と牛肉はもちろん、それらを原料とする製品全般の国内価格が将来的に高騰することは目に見えている。「高騰」だけで済まずに、安定的な食糧調達自体が危うくなる未来だって遠くない。

食の安全保障は最も重要なものの一つで、ただでさえ少ない国内での食糧生産を減らすような事態を放置することは愚かさの極みだ。国内の酪農産業が再び沈んでいく事態を見過ごさないため、乳業メーカー、小売業者、そして消費者は思い切った値上げを受け入れるべきだ。そして国はその解決への方向性を示すべきなのだ。
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日沖 博道

パスファインダーズ株式会社 代表取締役 社長

パスファインダーズ社は少数精鋭の戦略コンサルティング会社です。「新規事業の開発・推進」「既存事業の改革」「業務改革」の3つを主テーマとした戦略コンサルティングを、ハンズオン・スタイルにて提供しております。https://www.pathfinders.co.jp/                  弊社は「フォーカス戦略」と「新規事業開発」の研究会『羅針盤倶楽部』の事務局も務めています。中小企業経営者の方々の参加を歓迎します。https://www.pathfinders.co.jp/rashimban/        最新著は『ベテラン幹部を納得させろ!~次世代のエースになるための6ステップ~』。本質に立ち返って効果的・効率的に仕事を進めるための、でも少し肩の力を抜いて読める本です。宜しければアマゾンにて検索ください(下記には他の書籍も紹介しています)。 https://www.pathfinders.co.jp/books/

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