少子化と拝金主義:文明論的成長限界

2023.03.11

ライフ・ソーシャル

少子化と拝金主義:文明論的成長限界

純丘曜彰 教授博士
大阪芸術大学 哲学教授

/ローマ帝国をはじめとして、文明はある一線を越えると、かならず衰退する。社会ゲームの勝者が確定的になってしまうと、絶対的に勝ち目が無くなったその他の絶望者たちは参加意欲を急速に失い、社会そのものが空中分解してしまうからだ。/

もうダメそうだ。日本に限らず、先進国は一様に。米国もアッパーミドルが衰退。勢いづいたばかりの中国ですら急激な少子化。原因については、女性の社会進出、晩婚化、貧困化、など、いろいろ言われているが、もっと大きな文明論的限界があるのではないか。

非文明国なら、そこは理不尽なことだらけ。強盗に戦争、疫病や災害。権力者は横暴で無慈悲。そういうところでは、武力のある者に頼り、学知のある者に従い、神仏を伝える者にすがった。しかるに、文明国では、イージーモード。ゲームで言えば、イレギュラーなアクシデントはいっさい無し、という設定オプション。暴力無し。戦乱無し。疫病や災害も政府補償。こんな安寧な世の中では、武力は論外。学問、まして信心など、必要としない。それで、みんな、リスク分散のポートフォリオ無しに、ただカネを稼ぐことだけに邁進。

いまや、すべてはカネだ。成功したかどうかは、カネで測られる。稼いでいるやつが、偉い。社会的になんの意味があるかわからないが、とにかくスポーツ選手などはヒーローで、大金を得るのが当然。同様に、人気がある、知名度がある、ということで、なにをやったのかわからない有名人も、出演だ、広告だ、イベントだ、といって、カネを集めまくる。中小の個人事業主、実業家も、経費、経費で、税金も払わず贅沢三昧。

よく日本人の平均給与443万円などという数字が出されるが、まったくのごまかし。あれは、人に雇われている給与所得者の平均。「給与」ではなく「報酬」として受け取る上記の人々、それを金融資産に変えて配当や金利、家賃を受け取る場合を含まない。だから、金融資産5000万以上の日本の富裕層、準富裕層世帯は、むしろもはや8.5%にも増えている。道理で、やたらレクサスとかが日本中を走り回っているはずだ。

独身女性が玉の輿をめざすのも当然。50人の男に会えば、そのうち、なんと4人以上が、お金持ちの家。宝くじなどより、じつははるかに率が高い。将来まで貧乏に呪われている勤労者家庭の勤労者の息子など、話にならない。もっとも、親として貧乏人の娘との結婚なんか許さないという先方の家庭もあるだろうから、これまた話は、そうかんたんではないが。

しかし、使えば無くなってしまうカネを減らさないようにする、というのも、なかなか難儀なもの。まして、増やそうとなると、相当の努力がいる。そして、財産維持増大の努力に比して、しだいに生活水準の向上率が割に合わなくなる。つまり、カネを稼ぐために多大な努力をしなければならないにもかかわらず、それほど生活は良くならなくなっていく。専門的に言えば、限界代替率というやつが逓減していく。そして、カネへ努力しすぎると、かえって生活の質を落とすことになる。

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純丘曜彰 教授博士

大阪芸術大学 哲学教授

美術博士(東京藝大)、文学修士(東大)。東大卒。テレビ朝日ブレーン として『朝まで生テレビ!』を立ち上げ、東海大学総合経営学部准教授、グーテンベルク大学メディア学部客員教授などを経て現職。

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