コロナ予算77兆円に見識はあったのか

画像: Marco Verch Professional Photographer

2022.03.23

経営・マネジメント

コロナ予算77兆円に見識はあったのか

日沖 博道
パスファインダーズ株式会社 代表取締役 社長

空前絶後とされた2020年度の補正予算には根本的な謎がある。新型コロナ対策のために「実質的な支出」を倍増させたはずの補正予算がもたらしたものはGDPの大幅な落ち込みだった。なぜこんな結果になってしまったのか。実は必然だったという側面があるのだ。

実は政治家の一部には、この種の「繰越金になるであろうことが目に見えている」予算の膨らませ方については、予算規模を大きく見せて国民を安心させるために効果的であり、しかも実際に使われないのだから国家財政が痛まないので「見せ金」的な予算手法だと割り切っている節がある。しかしそうしたやり方は、国家の財政管理と予算計上プロセスに対する信頼性を著しく損なう邪道だと指摘したい。

もう一つの繰越金の発生要因は、(予算自体は必要な政策のためではあるが)実際の執行が遅れてしまい年度内に使い切れなかった、というものだ。この年度の3回目の補正予算が成立したのが2021年の年明け1月末だったので、年度内に使い切ることがそもそも難しかったという側面もある(これもはじめから「見せ金」的な予算手法だったことを示唆するものだ)。

繰越金の内訳を分析した資料によると、コロナ過で打撃を受けた企業向けの「実質無利子・無担保融資制度」の6.4兆円を筆頭に、休業要請に応じた飲食店などへの協力金に充てる「地方向け臨時交付金」が3.3兆円、観光支援策「GO TOトラベル」も予算の約半分の1.3兆円、公共事業費も4.6兆円と、巨額の使い残しが目立った。

そのうち感染拡大を避けるために年末に停止したままの「GO TOトラベル」や、コロナ対策とほとんど関係がなさそうな「公共事業費」(こちらは人手不足のせいだろう)は置いといて、「実質無利子・無担保融資制度」や「地方向け臨時交付金」はまさに新型コロナ対策の中核経済政策でもあり、絶対的に必要とされたものだったはずだ。なぜスムーズに執行されなかったのか。

端的に言えば、申請を行う側にとってはあまりに煩雑な手続きのためになかなか申請できないことと、申請を受ける役所側にとっては審査や振り込みなどの手続きに時間が掛かって支給が遅れることが問題としてクローズアップされてきた。

これらはあまりに不正防止に力点が置かれたため、(ただでさえ分かりにくい役所書類がさらに)煩雑な書式になりかつ多くの添付書類を要求したことと、役所側の人手不足およびデジタル化の欠如という「供給体制」に問題があったということの2面を指摘できるだろう。

前者は、GO TOイートや持続化給付金などで不正受給が問題化したので、中央官僚があれもこれもと要求したためと想像できる。しかし不正防止策として書類を煩雑にするのは「下の下」の策である。本人確認(または事業実態確認)の部分をしっかりとした上で、後で確実にトレースできることと罰則を重くすることで不正のインセンティブをなくすことが重要なのだ。

後者(「供給体制」の問題)については既に色々なところで指摘されているのでここでは割愛する。とはいえ、マイナンバーカードと銀行口座の紐づけは早めに進めておくに限ることは指摘しておきたい(これは前者の不正防止策にも間接的に有効だ)。
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日沖 博道

パスファインダーズ株式会社 代表取締役 社長

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