IMD(国際経営開発研究所:International Institute for Management Development)が発表した「世界競争力年鑑(World Competitiveness Yearbook)2025年版」によると、日本の競争力順位は69か国中35位となっています。 改善すべきポイントは多岐にわたりますが、私が最も根本的な問題だと考えているのは、企業や個人の「Will(意思)」の弱体化です。
昨年6月、IMD(国際経営開発研究所:International Institute for Management Development)が発表した「世界競争力年鑑(World Competitiveness Yearbook)2025年版」によると、日本の競争力順位は69か国中35位となっています。
日本の総合順位の推移を振り返ると、1989年から4年連続で1位を獲得し、その後も2位、3位、4位と高い順位を維持していました。しかし1997年に17位へと急落して以降、多少の上下はあるものの、全体としては長期的に衰退傾向にあります。つまり、平成の時代を通じて、日本企業のグローバルにおけるプレゼンスは大きく低下してきたと言えるのではないでしょうか。
2025年の4大分類別の順位を見ると、インフラは19位と比較的健闘している一方で、経済状況は23位、政府効率性は38位、ビジネス効率性は51位と、特に企業活動に直結する分野で低迷が目立ちます。
ビジネス効率性の中分類を見ると、「経営プラクティス」は65位と、ほぼ最下位に近い水準です。日本企業は、意思決定の迅速性や変化への認識・対応力といった組織資本の面で、国際的に低い評価を受けています。さらに「起業家精神」に至っては69位と最下位です。
改善すべきポイントは多岐にわたりますが、私が最も根本的な問題だと考えているのは、企業や個人の「Will(意思)」の弱体化です。
バブル景気の頃、日本は世界第2位のGDPと潤沢な資金を背景に、企業による海外投資が活発に行われていました。一方で、2025年の対外直接投資は17位にとどまっています。また、2000年頃まではアジアの拠点といえば東京であり、欧米企業も積極的に進出していましたが、2025年の対内直接投資は68位と、投資先としての日本の魅力は著しく低下しています。
近年注目されているAI分野においても、日本の投資規模は世界トップの米国と比べると桁違いに小さいのが現状です。スタンフォード大学の「AIインデックス報告書2025」などによれば、民間投資額は日本が約9.3億ドルであるのに対し、米国とは約117倍、中国とも約10倍の差があります。
特にAIの基盤技術開発では出遅れており、現在多くの企業が志向しているのは、米国が開発した基盤技術を活用して業務効率化を図る、といったアプローチにとどまっています。
こうした傾向は企業だけでなく、人の姿勢にも表れています。先日、私の勤める会社で「調達購買業務にAIをどう活用するか」をテーマとしたセミナーを実施したところ、大きな反響がありました。しかしその多くは、「個人的な使い方を教えてほしい」というもので、企業の業務プロセスそのものを改革するためにAIを活用したい、という声は少数派だったと聞いています。つまり、日本企業の競争力を強化したいという想いそのものが、薄れてきているのではないでしょうか。
2008年、海部美知氏は『パラダイス鎖国 忘れられた大国・日本』という著書の中で、「パラダイス鎖国」という概念を提示しました。これは、外部から強制されるわけでもなく、「住み心地の良い自国
(日本)に満足し、自発的に外の世界やグローバルな変化に関心を持たなくなる状態」を指す言葉です。日本企業の製品や技術が「ガラパゴス化」していると言われる背景にも、国内市場が大きく、グローバルに目を向けなくても生き残れてしまう、という構造があります。これこそが「パラダイス鎖国」の本質でしょう。
近年、この傾向はさらに強まっているように感じます。単なる内向き志向にとどまらず、円安や物価高といった経済的要因、DXやAIをはじめとするデジタル化の遅れによる競争力低下、さらには「競争しようとする意欲そのものの喪失」が重なっているように思えます。
加えて、冷戦後の国際紛争や宗教対立の激化による安全志向の高まり、アニメやオタク文化、インバウンドといった日本の強みが必ずしも外向きの競争につながっていない点など、さまざまな要因が複合的に作用しています。
実際、海外に行くこと自体を躊躇する人も増えています。パスポート所持率は2024年末時点で約17%、つまり約6人に1人という低水準です。こうした「パラダイス鎖国」を肯定する空気が広がることで、IMDの国際競争力順位の低下にもつながっているのではないでしょうか。
確かに、この20年ほどで、国際競争に勝てる強い日本企業は確実に減少しました。一部の自動車メーカーを除けば、最終製品メーカーの多くは中国、台湾、米国企業にその地位を譲り、競争力を保って
いるのは素材や部品といった基盤技術メーカーが中心です。
今から35年前、NHKで「電子立国日本の自叙伝」という番組が放送されました。バブル経済末期の放送でしたが、日本の電機・電子・半導体産業が世界を舞台に活躍していた歴史を描いたドキュメンタリーです。その中で、今でも印象に残っているのが、当時S社の副社長が語った次の言葉です。
「K社さんと競争しているうちに、気がついたら周りに誰もいなくなっていた」。この「電卓戦争」は、世界で戦うための国内競争でした。それに比べ、現在の「国内が快適だから外を見ない」という
パラダイス鎖国的な姿勢との違いは、非常に対照的です。この差が、AI基盤技術開発の遅れや、「誰かが作ったものを上手に使う」だけの現状につながっているように思えます。
では、このような時代においてWillを持ち、再び国際競争力を高めていくために、私たち――特に調達購買部門で働く人間は、何をすべきなのでしょうか。
このテーマについては、次回、私なりの展望と考えを述べていきたいと考えます。
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2009.02.10
2015.01.26
調達購買コンサルタント
調達購買改革コンサルタント。 自身も自動車会社、外資系金融機関の調達・購買を経験し、複数のコンサルティング会社を経由しており、購買実務経験のあるプロフェッショナルです。
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