社会インフラを考える(12)原発を諦め水素社会への投資に切り替えよ

画像: Eden, Janine and Jim

2021.01.06

経営・マネジメント

社会インフラを考える(12)原発を諦め水素社会への投資に切り替えよ

日沖 博道
パスファインダーズ株式会社 代表取締役 社長

国家政策として膨大な資金を投じながら、将来のエネルギー選択肢としては不適格なことが明白になってきた原子力発電。日本という国の将来を見据えれば、その膨大な無駄金を将来のエネルギーである燃料電池と水素発電のための技術開発やインフラ普及に思い切って振り向けることこそが日本再生戦略だ。

それでも電力会社および政府は原発の再稼働および新設を諦めきれないようだ。それはなぜか。一番大きい理由は「ここまで膨大なカネを長年投じてきたんだぞ。やめてしまったら今までの苦労が水の泡だ」という素朴な感情だ。企業経営でもよくある話で、長年続けてきた赤字事業を止められないまま倒産の危機を迎える、お決まりのパターンだ。しかしこの手の感情論は、公共政策や公器としての企業経営では御法度だ。

経営理論で「Sunk Cost」という概念がある。「ここまでに投じられた費用はすべて一旦忘れなさい。この時点から先の費用対効果が1以上(つまり費用よりリターンのほうが大きい)か否か、それだけが投資や事業継続判断の基準だ」というものだ(正確にはキャッシュフローの正味現在価値で考えるのだが、ややこしくなるのでここでは割愛する)。原発も同じだ。ここまで掛けた手間暇・費用は全部一旦忘れ、ここから先の費用対効果で考えなくてはいけない。そして原発の場合、その費用対効果は他のエネルギー手段に劣ることが明白だ。つまり経済的に不適格なエネルギー手段なのだ。

経済的見地だけでも不適格なのに、万一の災害時には制御不能になってしまう原子力発電所を世界有数の地震国の各地に作りまくってしまったニッポン。こんなバカげた「化け物施設」に膨大な国民のカネをこれ以上つぎ込むことは愚かな所業でしかない。

その無駄金を、将来的に本当に割安でクリーンなエネルギーの開発・普及のために投じるべきだというのが著者の考えである。具体的には燃料電池と水素発電(この2つは別物。詳しくはこちらで)の技術確立と普及である。

水を排出するだけでクリーンな、エネルギー効率の高い燃料電池および水素発電が普及すれば、カーボンニュートラルを実現できるだけでなく、日本全体のエネルギーコストは劇的に下がる。ガソリンなどがほぼ不要になり電力代が大幅に安くなることで光熱費も交通費も激減し、国民は豊かに暮らすことができ、産業競争力も格段に上がる。紛争頻発地の石油や天然ガスに依存する必要がなくなれば世界の地政学的リスクに振り回されることもなくなる。

しかしそのためには相当な技術開発と膨大なインフラ投資(水素ステーション、水素発電所など)が必要になってくる。そのための資金の有力な出処こそが、今は原発に注がれている膨大な「無駄金」である。これを水素社会の実現に向けて投じることこそ「生き金」への大転換であり、日本再生の切り札となる戦略的なエネルギー政策となる。政治家の諸先生方には是非腹を括っていただきたい。

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日沖 博道

パスファインダーズ株式会社 代表取締役 社長

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