ウーバーとグラブハブ:生き残りをかけた憎まれっ子同士の合併

画像: ダイナ・サーチ撮影

2020.05.19

経営・マネジメント

ウーバーとグラブハブ:生き残りをかけた憎まれっ子同士の合併

石塚 しのぶ
ダイナ・サーチ、インク 代表

アメリカにおけるライドシェア最大手のウーバーが、料理宅配サービス大手のグラブハブに買収提案。コロナ・ショックでウーバーの中核事業である「パッセンジャー(人の輸送)ビジネス」が大打撃を受ける中、かたや大流行の料理宅配サービスに突破口を見出そうという算段だ。しかし、「今をときめく」はずの料理宅配サービスには、やってもやっても利益が上がらない、という致命的な欠陥が・・・。

生き残りを賭けた大勝負
では、なぜ、その「売上は上がっても利益は出ない」ようなビジネスをウーバーが続行したがるのが、あるいは欲しがるのか・・・。

最大の理由は、ウーバーが主要収益源としているパッセンジャー・ビジネス、つまり「人」を輸送するというビジネスの需要が、向こう一年間かそれ以上元通りにはならないという懸念があるからです。

コロナの感染拡大が落ち着けば、国内旅行ビジネスは復活するだろうといわれています。車社会のアメリカでは、特に「ロード・トリップ」、つまり生活者が自分の車で行ける範囲のところに行くタイプの旅行が盛り上がりを見せるのではないかと予測されています。

もともと車社会のアメリカでは、ニューヨークやサンフランシスコなど公共交通機関が充実していて車を持たない生活形態が成立する都市の住民を除いて、大多数の人が自家用車を持ち、普段は自分の車を運転して生活しています。ライドシェア・サービスを使うのは旅先や、友人や知人とお酒を飲みに行くときなどに限られますが、自分の車を運転して旅行する際にはもちろんライドシェアを利用する必要はありませんし、コロナウイルスの感染懸念があるうちは外出も控えるので、ライドシェアの利用機会は当然劇的に減少します。

また、ウーバーなどのライドシェア・サービスにとって、大きな収益源となっていたのが「ビジネス・トラベラー」による利用でした。しかし、現在のところ、ほとんどの企業が商用の旅行を見合わせています。そればかりか、コロナ終息後も、ズームなどのバーチャル会議で済ませられるものはバーチャルで済ませ、「ビジネス・トラベル」は本当に必要な場合に限るという新しいワークスタイルが定着するとの予測もあります。

つまり、ウーバーにしてみれば、今日まで築き上げてきた年商146億ドルの源泉、そして時価総額570億ドルの基盤となるビジネスが根こそぎに失われるという深刻な不安があるわけです。

ですから、グラブハブの買収を通して料理宅配サービス市場における首位の座を掌握することは、ウーバーにとっては生き残りを賭けた大勝負であるといえるのです。

そして、グラブハブにとっても、ウーバーという「巨人」と手を結び、業務やインフラやアセットの「効率化」を行うことでコスト構造を改善し、事業を黒字化にもっていくことが頼みの綱です。それが実現できなければ、どんなに売上が増加しても損失がかさむばかりのグラブハブのビジネスに未来はないでしょう。

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石塚 しのぶ

ダイナ・サーチ、インク 代表

ダイナ・サーチ、インク代表 https://www.dyna-search.com/jp/ 一般社団法人コア・バリュー経営協会理事 https://www.corevalue.or.jp/ 南カリフォルニア大学オペレーション・リサーチ学科修士課程修了。米国企業で経験を積んだのち、1982年に日米間のビジネス・コンサルティング会社、ダイナ・サーチ(Dyna-Search, Inc.)をカリフォルニア州ロサンゼルスに設立。米優良企業の研究を通し、日本企業の革新を支援してきた。アメリカのネット通販会社ザッポスや、規模ではなく偉大さを追求する中小企業群スモール・ジャイアンツなどの研究を踏まえ、生活者主体の時代に対応する経営革新手法として「コア・バリュー経営」を提唱。2009年以来、社員も顧客もハッピーで、生産性の高い会社を目指す志の高い経営者を対象に、コンサルティング・執筆・講演・リーダーシップ教育活動を精力的に行っている。主な著書に、『コア・バリュー・リーダーシップ』(PHPエディターズ・グループ)、『アメリカで「小さいのに偉大だ!」といわれる企業のシンプルで強い戦略』(PHP研究所)、『ザッポスの奇跡 改訂版 ~アマゾンが屈した史上最強の新経営戦略~』(廣済堂出版)、『未来企業は共に夢を見る ―コア・バリュー経営―』(東京図書出版)などがある。

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