自動運転レベル3はファンタジーに過ぎない

画像: Dion Hinchcliffe

2019.06.12

経営・マネジメント

自動運転レベル3はファンタジーに過ぎない

日沖 博道
パスファインダーズ株式会社 代表取締役 社長

自動運転のレベル3が想定する「緊急時にはシステムがドライバーに介入を要求し、ドライバーはこれに『適切に』応答する」などというのは現実世界では想定すべきではないもので、言ってしまえば「たわごと」だ。

先のSAEが示す「自動運転レベル3」のイメージは多分、航空機の自動運転システムのそれだろう。ある程度の高度を飛んでいる飛行機ならばそれでもいい。仮にシステムが責任放棄しても、墜落までには操縦士が機体を立て直す時間的余裕も多少はあるだろう。しかし狭い地上の道路を他のクルマと一緒に走っているクルマの場合、そんな悠長な話ではない。

それに恐ろしいのは、人間の脳というものは注意力・集中力が一旦完全に弛緩してしまうと、一瞬ではフルに再起動するようにはできていないことだ。心理学的には「認知のトンネル化」(tunnel vision)と「反射思考」(reactive thinking)という状態に陥るそうだ(Charles Duhigg著“Smarter Faster Better”(日本語版『あなたの生産性を上げる8つのアイディア』)。

前者(tunnel vision)は、トンネルの中にいると外界が見えなくなるように、「何かに集中しているがゆえに他のことに意識が回らなくなっている状態」をいう。強いストレス状態に置かれたときに発生しやすいとされ、最も容易で最も明白な刺激に意識が集中しすぎて、危険を示す周辺情報を見落としてしまうことが起きやすい。

後者(reactive thinking)は、習慣に頼って(判断に頼ることなく)自動的に物事を進める状態だ。練習で何度も繰り返して体に覚え込ませたスポーツ選手が、試合中にいちいち考えて判断しなくとも瞬時に反応できるのも、我々の脳神経にそうした機能があるおかげだ。問題は、人がパニックに陥り判断力を失なった際には、何度も反復した反応行動を取りやすいが、それがベストの反応とは限らないということなのだ。

先の事故例でいえば、いきなり「運転を代われ」とシステムに要請されパニックに陥った脳と視神経は、のろのろと蛇行している前方のクルマに全神経を集中し、「えらいこっちゃ」と全力で警戒警報を発令する。平行して隣のレーンを走っているクルマに注意を払う余裕なんぞはまったくない。そして何度も反復した「危ないと思ったらハンドルで避ける」という反射思考を瞬時に引き起こしてしまうのだ。それはきっとあなただけではない。

こうした自動運転システムから運転者への突然のコントロール引き渡しに伴う「認知のトンネル化」と「反射思考」による事故の発生というパターンは、プロが操縦する航空機でさえも幾たびか大きな事故を引き起こしていることが分かっている(そのため今はそうした状態を想定した設定が、パイロットの訓練に取り入れられるようになっている)。

運転のプロでもない一般ドライバーが、そうした訓練もなしに、狭い地上の道路で自動運転走行中に、いきなりクルマのコントロールの責任を引き渡されたら、そうしたパニック状態にならないほうが稀なのではないか。それが問題を引き起こさないのは、訓練された職業運転手が限定された区間で「自動運転」するケースのみだ。

つまり自動運転レベル3が想定している世界はファンタジーだと言わざるを得ないのだ。クルマメーカーや自動運転システムベンダーはきっと、一挙にレベル4を実現することに 懸命になっているはずだ。
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日沖 博道

パスファインダーズ株式会社 代表取締役 社長

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