日本企業に埋め込まれた「シェア」と、欧米のワークシェアの違い(【連載17】新しい「日本的人事論」)

画像: けんたま/KENTAMA

2018.10.24

組織・人材

日本企業に埋め込まれた「シェア」と、欧米のワークシェアの違い(【連載17】新しい「日本的人事論」)

川口 雅裕
NPO法人・老いの工学研究所 理事長

組織・人事に関わる全ての施策は、日本人の特性や自社の独自性への洞察なしには機能しない。それは、OSが違えば、アプリが動作しないのと同じである。欧米の真似でもない、うまくいっている会社の真似でもない、日本企業において本当に機能する組織・人事の考え方や施策について思索・指南する連載。

最後に、シナジーも生まれにくくなる。相乗効果は、異なる利害や主張を持つ者同士が、いかにして互いに満足できるwin-winを実現するかというプロセスから生まれる。逆に、もともと同じ意見を持つ者同士がいくら話を重ねたところで、新しいアイデアは生まれてきにくい。明確な役割や業務の分担とは、組織に異なる立場の者を作ることなのであり、立場や見方が多様になった結果としてシナジーが生まれるようになる。「共有して一緒に」とう仕事の進め方をすればするほど、皆が同じ見方・考え方をするようになってしまう。そのような組織には、シナジーは期待できない。

●切り分ける力

とはいえ、日本型シェアをやめてしまうのは無理だろう。皆が同じ情報を持ち、仲間外れがないように、全員の合意形成に基づいて丁寧に物事を進めていくのは、仕事に限らず日本人の行動様式であるし、仕事がないからと言ってクビにしたりせず、また社内失業が起こらないように仕事を与え続けるようにするのは、日本の労働法制や労働慣行の要請によるものであるからだ。

重要になるのは、中間管理職層の「シェア」に関する考え方の転換だ。

まず、自らの権限や責任まで、上位者や部下とシェアするような態度はやめるべきである。上位者への相談を重ね、その回答からいろいろと忖度して物事を決めたりするような態度は、自らの権限や責任を上位者とシェアしているのと同じである。また、部下の意見や意向をいろいろとヒアリングし、自らの意見との調整を図って最大公約数を結論とするような態度も、自らの権限や責任を部下とシェアしている。このような態度は、そのポジションに本来、求められているものではないだろう。

次に、「情報の共有」に価値を置きすぎないことである。何でもシェア(共有)すれば、自分もメンバーも安心するのは間違いないが、成果が上がるというものではない。何でも共有するようにという指示は、会議を増やし、コミュニュケーションを複雑にしてしまう。報告・連絡・相談の上手さが仕事ができる人であるかのような錯覚をメンバーに抱かせ、せっかくの多様な才能をつぼみのまま萎ませてしまいかねない。

仕事を切り分ける力、欧米型のシェア(分担)をする力を身に着けるのも大切だ。各々の職務を明文化し、期待する成果の内容を細かくしっかりと約束し、結果に対する責任を問い、説明を求めるようにすることである。「曖昧な分担と綿密な共有」というスタイルから、「明確な分担と、異なる立場同士の葛藤」へマネジメントを転換する。それによって、各々のリーダーシップと組織のシナジーが期待できるはずだ。

【つづく】

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川口 雅裕

NPO法人・老いの工学研究所 理事長

「高齢社会、高齢期のライフスタイル」と「組織人事関連(組織開発・人材育成・人事マネジメント・働き方改革など」)をテーマとした講演を行っています。

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