タレント・マネジメントが、全くうまくいかない理由(【連載15】新しい「日本的人事論」)

画像: Jun K

2018.09.19

組織・人材

タレント・マネジメントが、全くうまくいかない理由(【連載15】新しい「日本的人事論」)

川口 雅裕
組織人事研究者 /NPO法人「老いの工学研究所」理事長/一般社団法人「人と組織の活性化研究会」世話人

組織・人事に関わる全ての施策は、日本人の特性や自社の独自性への洞察なしには機能しない。それは、OSが違えば、アプリが動作しないのと同じである。欧米の真似でもない、うまくいっている会社の真似でもない、日本企業において本当に機能する組織・人事の考え方や施策について思索・指南する連載。

自社内にいる人材が持つスキルや能力などを個別に把握することによって、各業務にもっとも適した人材を配置できるようにするとともに、個別にその能力の開発計画を立案・実行しようとするのがタレントマネジメントだ。感覚やイメージで人の配置を決めたり、個別性に配慮せず画一的な教育を施したりしていては駄目だということで、ここ数年、これに熱心に取り組む企業が増えた。

構想としては、①職種別・階層別に必要な知識・スキルを定める、②それらを満たしているかどうかを個別に評価する(又は各自にチェックさせる)、③その結果をまとめて人材のデータベースを作る、④異動暦や保有資格などの従来のデータベースと合体させる、⑤検索性を高め、人事異動や教育研修にそのデータベースを活用する、ということになる。一見、うまくいきそうなのだが、データ量が膨らんだだけでほとんど利用されないケースが非常に多い。利用されている企業でも、従来の人事異動や教育研修から進化した実感はあまりないだろう。理由はその取り組み方において、日本の伝統的な人事のパラダイムである「標準化主義」を脱していないからだ。

「①職種別・階層別に必要な知識・スキルを定め、②それらを満たしているかどうかを個別に評価する」という発想は、上司や人事が理解できる範囲内の「特徴のない標準的な人材」を作ろうとしているのに他ならない。標準化主義は、弱みがなく、ソツなく何でもそれなりにこなせる人を良しとし、得意を伸ばすより苦手を克服させようとする。その結果、任せて安心の『普通の人』が量産されていく。『普通の人』たちのデータベースが出来上がる。ここで問題が生じる。『普通の人』をどう活用するのか?(皆が普通だから、誰を任命しても大差ない。)『普通の人』の能力開発をどうやって進めるか?(結局、これまで同様の画一的な教育研修を施すしかない。)

タレントマネジメントへの取り組みは、多くの会社で、従来の人材データベースの量を膨らませた程度に終わっており、人を活かし育てるという本来の目的にはほど遠い状態にある。人材データを管理しやすくなるシステムを作っている会社が儲かっただけで、働く人達や経営には今のところ、まったくいいことがない。重要なのは、①~⑤の手順にこだわってシステム構築をすることではなく、染み付いた「標準化パラダイム」を転換することである。

●タレント=強み

タレントを「人材」と曖昧に理解してしまうから、標準化主義によって人材が「普通の人」になってしまい、その活用や育成がうまくいかない。タレントとは「才能」である。才能とは、標準化された知識やスキルではない。上司や先輩たちがやってきたことを出来るようになった状態を指して、才能があるとは言わない。才能とは差別化された強みだ。他の人には出来ないことが出来る、他の人にはない知識を持つ、他の人が見えないことに気付くといったスキル・能力である。タレントマネジメントは、差別化された強みに焦点を当てなければならない。標準化パラダイムとは、真逆の発想だ。自社内の人材の多様な(それぞれ差別化された)強みを伸ばし、それを把握し、業務や状況に合わせて組み合わせることである。

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川口 雅裕

組織人事研究者 /NPO法人「老いの工学研究所」理事長/一般社団法人「人と組織の活性化研究会」世話人

組織人事関連(組織開発・人材育成・人事マネジメント・働き方改革・健康経営など)や、高齢者・高齢社会をテーマとした講演を行っています。

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