「動物園のような会社」と「エコシステム」(【連載20】新しい「日本的人事論」)

画像: Daniel Jolivet

2018.12.13

組織・人材

「動物園のような会社」と「エコシステム」(【連載20】新しい「日本的人事論」)

川口 雅裕
NPO法人・老いの工学研究所 理事長

組織・人事に関わる全ての施策は、日本人の特性や自社の独自性への洞察なしには機能しない。それは、OSが違えば、アプリが動作しないのと同じである。欧米の真似でもない、うまくいっている会社の真似でもない、日本企業において本当に機能する組織・人事の考え方や施策について思索・指南する連載。

弱肉強食と共存共栄は、局地的・一時的には両立しない。強い者と弱い者が出くわせば、強者は弱者を捕食してしまうから、共存は不可能だ。しかし、だからといって森の中がライオンだけになってしまうわけでもないし、地球がヒトだけになってしまうわけではない。そうなってしまえば、ライオンもヒトも生き残れないし、弱者は弱者でそれぞれ置かれた環境に適応し、進化しながら生き延びていくからだ。全体を長い目で見てみれば、自然界は誰が介入することもないのに多様性を保ち続け、共存共栄が実現している。弱肉強食も共存共栄を実現するための手段のようなものだ。生態系はこのような「放っておいても回る」仕組みを持っている。

注目されている「エコシステム」は、このような状態を目指そうという考え方だ。得意・不得意が多様な組織や人たちがそこに参加する。それぞれが誰に従属するでもなく、参加者たちの中央に強い権力や権限を置くのでもなく、各々が得意を活かし、自分にメリットがあるように行動する。(ただし、「共存共栄」を共通の目的や理念として設定しておくことは重要である。)その結果、参加者全員にとって望ましい果実が生み出される。それぞれが思いのままに力を出し切っているだけで、「放っておいても」成果が出て、「放っておいても」次の成果に向けて回り、進化していくような仕組みである。エコシステムは、イノベーションの創出を目指した企業同士の協働といった意味で使われることが多いが、以上のように捉えると、企業の組織運営や人事管理にも十分に参考になる。

エコシステムには、淘汰や代謝がつきものだ。得意がなければ、そこでは必要とされず見向きもされない。得意がなくても手を差し伸べてくれるような権力や権限は存在しないから、淘汰されてしまう。その意味では「弱肉強食的」ではあるのだが、重要なのはこれが「進化」や「成長」への強いインセンティブとして働くことである。そうして、参加者は必要とされ続けるために学ぶようになり、エコシステムは「学習する組織」になっていく。

それぞれが異なる得意分野を持って集まり、同時に不得意を補い合う関係にあるとき、そのチームにはリスペクトの感情が生まれる。エコシステムへの参加者は、自分には出来ないことができ、知らないことを知っている仲間のおかげで、成果が生まれていくのを実感できるからだ。そして、リスペクトは協調する姿勢、貢献する意欲につながっていく。異なる得意分野を持った者が集まってできた多様性は、「弱肉強食」ではなく、共存共栄を実現するのである。エコシステムが理想とするのは、放っておいても学び、進化し、成果が出て、共存共栄が実現する、そのような状態である。もちろん、そこではモチベーションやロイヤリティ、エンゲージメントといった観点の問題も解決する。

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川口 雅裕

NPO法人・老いの工学研究所 理事長

「高齢社会、高齢期のライフスタイル」と「組織人事関連(組織開発・人材育成・人事マネジメント・働き方改革など」)をテーマとした講演を行っています。

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