コンセプチュアル思考〈第23回〉 コンセプトの精錬法[5]~研ぎ澄まし

画像: Career Portrait Consulting

2017.03.16

組織・人材

コンセプチュアル思考〈第23回〉 コンセプトの精錬法[5]~研ぎ澄まし

村山 昇
キャリア・ポートレート コンサルティング 代表

概念を起こす力・意味を与える力・観をつくる力を養う『コンセプチュアル思考』のウェブ講義シリーズ

一例をあげると、「ガラパゴス現象」「ワーキングプア」「婚活」「終活」「ニート(Not in Education, Employment or Training, NEET):若年無業者」などは、すでに一般用語として定着した感があります。

また、「メカトロニクス」や「魔法瓶(まほうびん)」「ホームシアター」「宅急便」「バンドエイド」など、一企業の担当者がコンセプトを煮詰めてつくった商標が、一般名詞になる例もあります。

コンセプトを研ぎ澄ませていった結果、必ずしも造語ではなく、既存語に新たな息吹を吹き込む場合もときにあります。例えば、「パラダイム:paradigm」という語。これはそもそも実例とか模範という意味で使われていたものでしたが、科学史家のトーマス・クーンが著書『科学革命の構造』(1962年)のなかで、「概念的枠組み」のような意味で用い、以降、「パラダイム」は科学の重要語になりました。また、先に紹介した「イノベーション」という語も、シュンペーターによって力強いコンセプトを注入されたものの一つです。



◆5-c)メッシュを密にする
松居直氏は、児童文学者、絵本編集者、元福音館書店社長として知られる人です。著書『絵本のよろこび』(NHK出版)に次のような素敵なくだりがあります。

「まったくの個人的な体験ですが、十歳のころ、ちょうど梅雨のさなかで、学校から帰宅しても外へ出られず、縁側に座ってただぼんやりとガラス戸越しに庭を見るともなしに眺めていました。放心状態でした。外には見えるか見えないかほどの霧雨、小糠雨が降っていました。そのとき背後から不意に母のひとり言が聞こえました。

『絹漉しの雨やネ』

母の声にびっくりすると同時に、我にかえった私は「キヌゴシノアメか?」と思いました。私は“絹漉し”という言葉は意識して聴いた覚えがありません。わが家では父親の好みで、豆腐は木綿漉ししか食べません。しかし私には眼の前の雨の降る様と“絹漉し”という言葉がぴたっと結びついて、その言葉が感じとれたのです」。

……「絹漉しの雨」。この表現は一般的ではなく、辞書にも載っていません。おそらくお母さんの独自の言い回しだったのでしょう。けれど、多感な少年は何ともすばらしい言葉を授かったものですし、こうした「絹漉しの雨」が降るたびに、それを言葉で噛みしめられる感性も得ることができました。

私たちは一人一人同じ景色を見ても、感じ方はそれぞれに異なります。その差は、持っている言葉の差によっても生じてきます。雨を見るとき、「大雨」「小雨」「通り雨」「夕立」「冷たい雨」「どしゃ降り」───くらいの言葉しか持ち合わせていない人は、景色を受け取る感性のメッシュ(網の目)もその程度に粗くなりがちです。他方、自分のなかに、

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村山 昇

キャリア・ポートレート コンサルティング 代表

人財教育コンサルタント・概念工作家。 『プロフェッショナルシップ研修』(一個のプロとしての意識基盤をつくる教育プログラム)はじめ「コンセプチュアル思考研修」、管理職研修、キャリア開発研修などのジャンルで企業内研修を行なう。「働くこと・仕事」の本質をつかむ哲学的なアプローチを志向している。

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