GEが今、GEキャピタルを手放す理由

画像: GE Report

2015.06.01

経営・マネジメント

GEが今、GEキャピタルを手放す理由

日沖 博道
パスファインダーズ株式会社 代表取締役 社長

GEが長年の懸案、GEキャピタルの売却を公式に発表した。そのスケールもインパクトも例外的だが、意図はこれ以上ないほど明確である。

その過程ではウェルチ氏同様の「業界1位または2位」などの原則も掲示していたが、重きを置いていたのは全体像であり、そのための投資の原資を賄う一助にすべく、全体像に必要のない部門を売却してきたという、実に長期観点での戦略経営をしてきたのがイメルト氏だ。

そのイメルト氏が「今がその時だ」と考えた理由はおそらく3点ある。その第一は、「今が金融事業の売り時だ」という判断だろう。

リーマン・ショック後、GEキャピタルは資産の切り売りを着々と進めてきたため、そのバランスシートは縮小と同時に相当な改善を既に果たしたと見られる。そうした売り物に「磨きを掛けた」状態に持ってきたうえで、今は米系・中国系を中心に世界の金融業界が「いい出物がないか」と探し回っている、一種のバブル状態だ。

これこそGEにとっては長年待ち焦がれた売り時の到来である。

実際、GEキャピタルの大幅な事業縮小策の発表時には同時に、米投資会社のブラックストーンや米大手銀行のウェルズ・ファーゴに不動産関連資産を265億ドルで売却することが公表された。

第二の理由は、昨年に決着がついた、仏重電大手アルストムのエネルギー産業向け事業をめぐる争奪戦での勝利だ。独シーメンス・三菱重工業の日独連合との熾烈な争いを制したことで、元々世界トップの航空・運輸・医療向けに加え、電力・ガス向けでも圧倒的な世界トップの座を確定させたのだ。

要は、「自分たちは世界の製造業の王者だ」という誇りを強めると共に、GEキャピタルの売却によって生じる収益の落ち込みを埋める見込みが立ったのだ。

「製造業だとか言いながら金融部門に食わせてもらっているんじゃないか」といった陰口はもう言わさないぞ、と悲願達成へ邁進する気分になったことは間違いないだろう。ついでながら「業界1位または2位」というスローガンの徹底にも役立つ。GEキャピタルだけは(大きいとはいえ)全米7位という中途半端な市場地位だったのだから。

理由の第三は、同社の掲げるIndustrial Internet戦略の成果が見えてきて自信を深めたことだろう。

これこそ弊社がGEをウォッチしている主たる理由なのだが、今世界が注目するIoT戦略の先駆者として2012年11月に"Industrial Internet" Visionを発表後、新しいビジネスモデルにより顧客への価値提供の次元を上げると同時に、製造業の未来を変える試みを着々と進めている。

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日沖 博道

パスファインダーズ株式会社 代表取締役 社長

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