「看板に偽りあり」はなぜ繰り返されるのか?(後編)

画像: MIKI Yoshihito

2013.11.12

経営・マネジメント

「看板に偽りあり」はなぜ繰り返されるのか?(後編)

日沖 博道
パスファインダーズ株式会社 代表取締役 社長

外食産業や有名ホテルの偽装表示だけではない。冷蔵・冷凍輸送のはずが常温になっていたヤマトの「クール宅急便」。事件の本質は組織としての怠慢とコンプライアンス問題である。本来、こんな話題とは縁がない企業のはずであるのに、どうしたことか。

実はクール宅急便をめぐるこうした「常温輸送」問題は過去にも生じていた。そのため2012年に、ヤマトでは社長直轄でクール宅急便の品質改善のための部署を新設、改善策を施している。

中元シーズン前のこの5月からはクール宅急便品質向上期間を実施。クール宅急便機材の充足や現場社員の意識向上を全国で働き掛けていたという。

同社では今回の問題を受けて、すべての施設、営業所に対して再度ルールを徹底させるほか、より精度の高い調査を実施し、11月中に抜本的な改善策を策定するとしている。

つまり会社は懸命にクール宅急便の品質改善やルール順守を呼び掛けていたが、一部の意識の低い営業所やドライバー個人がルールを破ったのだ、とヤマトの本社は言いたいようだ。

しかし事はそれほど単純ではないのではないか。

多忙な営業所現場からは、本社の決めた規定や作業手順が現場の実態に合っていないとの声も聞く。

いちいち扉を閉めていたら仕事にならない、ということなら、クール宅急便は営業所でなく、しっかりと冷凍・冷蔵機能のある大きな施設で仕分けしなければいけない。事実、後発である佐川の飛脚クール便はニチレイロジグループと組んで、そうしている。

「クール」の上乗せ料金(210~610円)を取っているのだから、ヤマトを信頼して指定している通販業者等や、上乗せ料金を支払ってくれるお客に対し、約束したサービスレベルを保証する義務をヤマトは負っている。

きちんと現場の実態を把握し、業務のあり方を見直さねばならない。報道で糾弾されるまでこれをおろそかにしてきたという点で、本件の問題の本質は「組織としての怠慢」である。

さらに微妙な点もある。今回の「常温仕分け」問題は、そもそも内部告発により発覚した。ヤマト運輸関係者が朝日新聞社に現場のルール違反の実態を知らせる映像を提供したのである。

その意味することは何か。保冷材や機材が不足するために日常的にルール逸脱が起きていることを、現場の心ある人が本社に訴えていたが、なかなか改善されなかったのではないか。そのためショック療法としてあえて内部告発に踏み切ったのではないか。小生にはそう思える。

メニューの偽装表示は実態よりも良く見せようという「偽装」であり、クールの常温輸送は約束を果たせないという「能力不足」であり、悪質さの度合いは違う。

しかしいずれも顧客の信頼を日常的に裏切っていたことは同じで、その実態を知りながら営業を続けていた現場はコンプライアンス違反である。

しかし、もし本社サイドが実態を知りながら現場に咎(とが)を全部押し付けようとしているのなら、その罪はさらに重い。

昨年末に「二度と繰り返しません」と言っておいて抜本的対策が打たれていなかったこと、報道されることが明らかになるまで非を認めないこと、そこにヤマト本社の「変質」の臭いを感じざるを得ない。

暗黒大陸と呼ばれた物流業界において独自の顧客目線で新境地を開いてきた、尊敬すべき企業だったはずのヤマトがどう対応するのか、注目したい。

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日沖 博道

パスファインダーズ株式会社 代表取締役 社長

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