値決めは交渉それとも市場連動方式のいずれですべき?

2009.12.02

経営・マネジメント

値決めは交渉それとも市場連動方式のいずれですべき?

中ノ森 清訓
株式会社 戦略調達 代表取締役社長

資源大手のBHPビリトンが、原料用石炭(原料炭)の値決めを市場連動方式に切り替えるよう、日本の鉄鋼大手に対し、要請しました。今回は、BtoBの値決めを交渉と市場連動方式とのいずれですべきかについて考えます。

多くの調達・購買担当者の方は、それを自分の交渉力がないからと考えてしまい、「必勝」「不敗」「ハーバード流」「外交官が教える」「弁護士が教える」「相手にYesと言わせる」「ヤクザ流」「相手の心理や嘘を見破る」といった様々な交渉術の書籍やセミナーに多くのお金を投じてしまっています。

「本に書いてある事は使えない」と感じながらも、それでもやっぱり「それは、その本やセミナーが誤りであって、今度こそ本当の交渉術なのではないか」という悪魔のサイクルを繰り返しています。

確かに、売り手企業のお情けで、交渉を通して価格が下がる事もあります。しかし、それはせいぜい数%止まりで、交渉で価格が下がる場合の大抵は、売り手企業が値下げ余地を予め織り込んでおり、それを除いた適正な価格を、或いは、その一部のみを用いて、まだ余裕を残しながら値下げした価格を出してきているに過ぎません。

かように、値決め交渉というのは、お互いの時間の無駄に過ぎない行為なのです。

■ 市場連動方式も万能ではない

しかし、市場連動方式も万能ではなく、幾つかの留意点があります。一つには、市場連動方式で用いる指標、フォーミュラなどは、結局、交渉となり、結果の妥当性や、BtoBの価格決定での交渉術の効き目といった問題は残ったままです。

また、市場連動方式の公正さは、市場価格の変動リスクを売り手と買い手で分かり合う事にあり、相場の上げ下げの基調が変わる度にフォーミュラの変更を何れかが求めるようであれば、公正さが失われてしまいます。少なくとも、一年間など一定期間は合意した方式にコミットする必要があります。

そして、最大の懸念は、余剰マネーの増加と、それによる商品市場への投機マネーの過剰な流入です。投機マネーの流入により、価格の上げ下げの幅が過度に大きくなったり、市場が需給を反映しなくなっているという問題が起きています。

前者は、過去平均の利用など、ノイズを除去する方法はありますが、この方法では、市場と契約価格のタイミングにずれが生じ、その分、市場連動方式の採用にリスクが生じてしまいます。

後者は、非常に影響が大きい問題です。市場連動方式は、指標となる市場価格がある事が大前提です。市場が需給を反映しなくなると、この前提が大きく揺らいでしまいます。

実際に、保有原油埋蔵量、原油生産量、原油輸出量で世界最大のサウジアラビアの国営石油会社サウジアラムコは、実際の需給を反映していないという理由で、これまで彼らの市場連動方式で使っていたWTI現物価格を、来年1月積みからサワー原油指数への変更を10月末に発表しました。

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中ノ森 清訓

株式会社 戦略調達 代表取締役社長

コスト削減・経費削減のヒントを提供する「週刊 戦略調達」、環境負荷を低減する商品・サービスの開発事例や、それを支えるサプライヤなどを紹介する「環境調達.com」を中心に、開発・調達・購買業務とそのマネジメントのあり方について情報提供していきます

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