品質向上や差別化の努力が、なぜ最終的に価格競争という消耗戦に陥ってしまうのか、その構造的な限界について解説してきました。競争優位は時間とともに模倣され、市場全体が横一線に収束するからです。 この消耗戦をさらに苦しくしているのが、「期待インフレ」の罠です。
このように、期待の設計を通じて、企業はヒト・モノ・カネ・情報に次ぐ「期待」つまり顧客との関係性という無形資産を獲得するのです。期待を設計できる企業は、顧客から積極的に選ばれ続けることができます。
競争を抜け、成長を加速させる「共創優位」の構造
競争市場でいくら努力しても、それは消費されてしまいますが、共創OSで動く企業の努力は、信頼、共感、長期的な選好といった「関係資産」として時間とともに積み上がり、持続的に強くなります。
市場競争から抜ける唯一の方法は、「差別化」を繰り返すことではなく、「比較される前に、比べる行為そのものを無意味化する」ことです。そのための考え方こそが、共創優位です。
共創優位が成立した関係では、比較の軸は「A社とB社、どちらが優れているか」という企業間の比較から、「誰と組むと未来を最大化できるか」へと変化します。共創優位とは、「競合に勝つ」のではなく、「顧客と育つ」ことで強くなる構造です。
競争市場の成長が直線的であるのに対し、共創優位が成立すると、事業の成長は突然加速します。この加速は主に以下の3つの要因によってもたらされます。
1. 顧客獲得コストが“ゼロ化”する: 紹介やリピートが増え、営業行為が自然と減ります。
2. アップセルや継続が“説明不要”になる: 顧客が未来志向で成長を前提にしているため、価値提案がスムーズに通ります。
3. 顧客の成功=自社の成功になる: 成果が長期で積み上がっていきます。
この加速は、競争市場には存在しない“努力に比例しない成長”の獲得を意味します。
『事前期待』こそが、未来価値を設計する羅針盤
この共創優位の起点は、顧客がまだ気づいていない「未来の期待値」(進化期待)を見抜くことにあります。
そして、この未来価値を設計し、共創優位を実現するための設計図こそが、書籍『事前期待』で体系化されている理論です。
多くの企業は、新しい「打ち手」(サービス開発や提案、対応)にばかり注目してきましたが、「どのような事前期待に応えるのか」という「価値の設計」の議論が欠けていました。成功事例の再現性を高めたり、提供者都合のギラついたカスタマージャーニーマップ(CXの議論)を改善するためには、「どのような事前期待に」「どうやって応えるのか」を事前期待と打ち手をセットにして展開する必要があります。
また、顧客満足度(CS)やNPS(推奨意向)調査も、結果の評価ばかりで肝心な「事前期待」を聞いていないため、当たり前の結論しか得られず、現場で活用されないという問題に直面しています。
事前期待を理解することは、共創優位をつくるための設計図そのものです。競争をやめることは、未来への投資先を、他社との比較ではなく、顧客との「共創」という新しい土俵に変えることを意味します。
本書は、競争の消耗戦から抜け出し、持続的な成長を実現したいと願う企業にとって、この共創優位への転換を可能にするOSのアップデートとなるでしょう。
新刊『事前期待~リ・プロデュースから始める顧客価値の再現性と進化の設計図~』
| 提供会社: | サービスサイエンティスト (松井サービスコンサルティング) |
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2015.07.10
2009.02.10
サービスサイエンティスト (松井サービスコンサルティング)
サービスサイエンティスト(サービス事業改革の専門家)として、業種を問わず数々の企業を支援。国や自治体の外部委員・アドバイザー、日本サービス大賞の選考委員、東京工業大学サービスイノベーションコース非常勤講師、サービス学会理事、サービス研究会のコーディネーター、企業の社外取締役、なども務める。 【最新刊】事前期待~リ・プロデュースから始める顧客価値の再現性と進化の設計図~【代表著書】日本の優れたサービス1―選ばれ続ける6つのポイント、日本の優れたサービス2―6つの壁を乗り越える変革力、サービスイノベーション実践論ーサービスモデルで考える7つの経営革新
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