凡庸マーケティング:多様性の残滓

2023.08.21

営業・マーケティング

凡庸マーケティング:多様性の残滓

純丘曜彰 教授博士
大阪芸術大学 哲学教授

/人とは違う、人より先を行っている、と自認する、奇抜なファッションで見た目も尖ったマーケッターなんか、もうまったくの時代遅れ。いかに凡庸に徹して、特徴や個性へのこだわりを断捨離、全放棄できるか、それが次の時代のマーケティングには求められている。/

実際、たとえばインスタントラーメンでも、あまりに多種多様な特徴的商品が次々と発売されたが、みんなすぐ処分品のワゴン行き。結局、売れているのは、まずくはないが、さしておいしくもない、安っぽいサッポロ一番、チャルメラ、元祖カップヌードルなど。自動車でも、いろいろ凝った車が出ても、結局は、もっともつまらない軽自動車が、もっとも人気がある。スマホなどでも、斬新な高機能の最新機種より、年度落ち価格落ちのもので、あんなもん、つながればいい、としか、みんな思っていない。

だから、いままで人との競争に勝ち抜いてきて、ふつうにまともに会社勤めをしているような半端に頭のいい連中は、いまや根本から発想を切り換えなければならない。あなたは、もはや市場をリードなんかできないし、だれも市場にリード役なんか求めていない。連中は連中で、低いところで、かってにやっている。彼らを相手に商売をしようと思うなら、自分では絶対に進んでは買わないような、彼らに似た、凡庸でつまらないものを極めないといけない。

おにぎりにバナナ、原色の無果汁ソーダ。色がついているだけの緑茶。肉かどうかもあやしいハンバーガー。ビールまがいの発泡酒。香料で臭みごまかした焼酎ストロング。薄っぺらな百均のTシャツや靴下。上下で1万円もしない裏地なしスーツ。泊まれるだけのカプセルホテル。寝られるだけのワンルームアパート。世の中が貧乏になったというのもあるが、価格の問題以前に、多くの人々が、新製品だの、高機能だの、商品の特徴に価値を見いださなくなった。だから、クセの強い特徴的な商品は、処分ワゴンで値下げしても、だれも見向きもせず、手も出さないで、いつまでも売れ残っている。

努力してもムダだ。いや、商売のためには、努力して、すべての努力を削り落とし、脱力に徹しなければならない。芸人ですら、本気で漫才などに取り組む連中は、テレビやネットでは人気が出ず、むりをしてもひたすら散歩だのキャンプだのばかりやっているくらいなのだから、人とは違う、人より先を行っている、と自認する、奇抜なファッションで見た目も尖ったマーケッターなんか、もうまったくの時代遅れ。いかに凡庸に徹して、特徴や個性へのこだわりを断捨離、全放棄できるか、それが次の時代のマーケティングには求められている。

Ads by Google

この記事が気に入ったらいいね!しよう
INSIGHT NOW!の最新記事をお届けします

純丘曜彰 教授博士

大阪芸術大学 哲学教授

美術博士(東京藝大)、文学修士(東大)。東大卒。テレビ朝日ブレーン として『朝まで生テレビ!』を立ち上げ、東海大学総合経営学部准教授、グーテンベルク大学メディア学部客員教授などを経て現職。

フォロー フォローして純丘曜彰 教授博士の新着記事を受け取る

一歩先を行く最新ビジネス記事を受け取る

ログイン

この機能をご利用いただくにはログインが必要です。

ご登録いただいたメールアドレス、パスワードを入力してログインしてください。

パスワードをお忘れの方

フェイスブックのアカウントでもログインできます。

INSIGHT NOW!のご利用規約プライバシーポリシーーが適用されます。
INSIGHT NOW!が無断でタイムラインに投稿することはありません。