次にくる崩壊:世襲資本主義の終幕

2023.10.09

経営・マネジメント

次にくる崩壊:世襲資本主義の終幕

純丘曜彰 教授博士
大阪芸術大学 哲学教授

/現状は、不労所得の世襲者と機会喪失の勤労者との間で貧富格差が拡大しているが、前者も長いことはない。土地は借り手がおらず、伝統産業は消費者がおらず、サービス業は担ぎ手がいない。/

災害や戦争は致命的だ。しかし、それ以前に、経済の大きな地殻変動が確実にやってくるだろう。現状は、不労所得の世襲者と機会喪失の勤労者との間で貧富格差が拡大しているが、前者も長いことはない。土地は借り手がおらず、伝統産業は消費者がおらず、サービス業は担ぎ手がいない。

その典型が、地方の不動産。産業構造は変われども、数百年来、いわゆる地主は、小作農や大企業、テナント、そしてそれらで働く勤労者相手の住宅で、確実に不労所得を得てきた。しかるに、いまや農業には後継者がおらず、広大な大企業の工場跡地がゴロゴロ、商業地でもそこら中に空きビル空き店舗だらけ。まして、田んぼをのっぺした、交通の便の悪いアパートや駐車場なんか、だれも借りない。本人たちは、いまだにカネを産む先祖伝来の家宝と思っているが、人口減の社会では、もはやどこもクズ原野と同じ。

伝統産業も似たようなもの。たとえば、酒。いまや運転はもちろん、仕事でも、飲酒は厳禁。それも、アルコールが残る、ということで、前の晩からダメ。こうなると、連休でもなければ、飲む機会そのものが無い。そもそも、いまの時代、酔っ払って飲んだくれるよりおもしろいことがほかにいくらでもあって、酒に溺れるやつなど、激減してしまった。それで、海外にまで売ろうとしているが、事情はどこの国でも同じで、ワインだろうと、ビールだろうと、ウィスキーだろうと、もはや世界中でだぶついている。

飲食店や旅館業、中小町工場や土木建設業、地方政治家や士業事務所、田舎病院や介護施設、そして学習塾や私立学校なども、ついこの前まで、その世襲の老会長や若旦那が高級外車を乗り回し、愛人を囲って遊び暮らしていられた。が、もう彼らを神輿に担ぐ兵隊が集まらない。むしろ仕事はいくらでもあるのに、実際に作業をする人間がいないから、受注も落札もできない。かといって、会長だの、旦那だの、資格はあっても経験がないから、自分でやることもできず、結局、倒産廃業せざるをえない。

こういう世襲連中と長年つるんできた地方銀行も、地獄の道連れ。これまで絶対安定の担保と思っていた土地やノレンが、まったく当てにならず、いきなり行き詰まって、ある日、突然に倒れる。回収しようにも、連中の家屋敷も、時価ではほとんど無価値。住宅メーカーに売ってはみるものの、乗せものの方が高騰しているため、勤労世帯がローンで買えるような低価格にするには、不動産の方は二束三文に下げざるをえない。それで、大手銀行に救済吸収合併されたとしても、支店も行員も、ほとんどすべてリストラされる。

街中も、そう安心してはいられまい。たしかにかえって地方から人とカネが集中し、再開発が進むが、以前の延長線の感覚でカネをかけすぎているから、それが果たしてペイするかどうか。あやうい巨大バランスシートの上で楽しく踊っていても、災害や戦争、○○ショックのような不慮の事態が起これば、とたんにポッキリ折れてしまう。もっとも、都会の場合、だれも責任を取らず、みんな逃げてしまうから、まあ、それでいいのかもしれないが、巻き込まれる可能性のある人たちは、早めに自前で脱出ボートを準備しておかないと、いっしょに沈む。

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純丘曜彰 教授博士

大阪芸術大学 哲学教授

美術博士(東京藝大)、文学修士(東大)。東大卒。テレビ朝日ブレーン として『朝まで生テレビ!』を立ち上げ、東海大学総合経営学部准教授、グーテンベルク大学メディア学部客員教授などを経て現職。

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