いま、ライプニッツのモナドロジーを

2022.09.15

ライフ・ソーシャル

いま、ライプニッツのモナドロジーを

純丘曜彰 教授博士
大阪芸術大学 哲学教授

/大所高所に立つ、とか、大局を見る、とかいうと聞こえがいいが、おそらくそれではその内部にうごめく圧力の高まりや、それらが引き起こす次の破局的な変革を読み取れない。昨今の、漫然たる日本の経済政策、企業の経営方針を見るにつけ、もっと繊細にモナドロジー的な分析考察で、先を読むことが求められるのではないか。/

現代の我々は、宇宙というと、物理的な距離空間を想定しがちだが、カントが言うように、それはまさに我々側の思弁的な想定であって、一つの視野に収まらない世界に関しては、じつはその中の物事の距離も実感できていない。たとえば、東京と大阪の距離も、なんとなく時間的に知っているだけで、物理的な距離としては、まったくの当て推量だろう。そして、よく知っているつもりの時間的な距離にしても、我々は異なる時刻に同時には存在しえないがゆえに、むしろさっきと今の時計の変化、それどころか、東京からどのあたりまで来たか、で、推察することしかできない。

なぜライプニッツのモナドロジーが重要か、と言うと、それが積極的にユークリッド・ニュートン的な絶対距離空間の前提をとっぱずしてしまったから。宇宙は、物事の秩序にすぎない。国際線で世界を飛び回るのに、成田が東京か千葉かなど問題にならない。それどころか、乗ったら、途中、どういう航路で飛ぶのかすら知らないし、知る必要も無い。このような、点と点の秩序だけからなるライプニッツの宇宙観、モナドロジーは、カントの時空間の主観論、そして、物理学の相対性理論において、ニュートンの絶対距離空間と並ぶほどの意味を持つに至った。

このモナドロジーから発展した数学理論を、トポロジー(位相幾何学)と言う。とはいえ、ある不勉強な数学史学者が、トポロジーは距離の捨象だ、などと言っていたが、それでは話にならない。絶対座標という総体的な距離空間を否定するだけで、トポロジーは、近傍だの、コンパクトだの、むしろ根本から「距離」概念無しには成り立たない。ただ、「距離」を多くの点の多重的な集合(集合の集合)とすることで、いいかげんなまま(実測無しに)ほっておく、というだけのこと。

しかしまた、モナドロジーがトポロジーに解消された、というのも、正しくない。というのも、トポロジーは点の集合論だが、ライプニッツのモナドは、独立の意志があり、実際に「力」を持っている。ある意味では、点よりベクトルに似ている。しかし、もちろん、モナドの力の方向、発現は、ベクトルのように、その空間内に限定されない。むしろ、宇宙がモナドの秩序であることにおいて、モナドの変化は、宇宙をも変化させる。

この意味で、モナドロジーがもっとも身近な分野は、経済学や社会学のミクロ視点だろう。考察の粒度を個人にまで落とし込むとき、それはモナドになる。マクロ視点だと、いろいろな内情が総和において相殺され、視野から消滅してしまうが、個人個々の意志や行動をつぶさに見て、それを積み上げていくとき、マクロの中にうごめく圧力、そしてマクロをも変革する破局的な動きが見える。

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純丘曜彰 教授博士

大阪芸術大学 哲学教授

美術博士(東京藝大)、文学修士(東大)。東大卒。テレビ朝日ブレーン として『朝まで生テレビ!』を立ち上げ、東海大学総合経営学部准教授、グーテンベルク大学メディア学部客員教授などを経て現職。

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