料理は芸術か娯楽か:料理番組の是非

画像: ジャンフランコ・ヴィッサーニ

/料理は、芸術でも、娯楽でもない。愛だ。作った人と食べる人をつなぐ。その先には、素材を作った人、食べられる動物や野菜、それらを育てる環境、それを守る地域の人々もいる。そのつながりに愛があってこそ、舌の先でおいしさがシンフォニーになる。/

 イタリアのテレビは、料理ショーだらけ。ヴァラエティの『調理師試験(プローヴァ・デル・クオーコ)』(2000~2020)、農業と料理を案内する旅行番組の『緑の道(リネア・ヴェルデ)』(1981~)、素人オーディションの『マスターシェフ・イタリア』(2011~)、そして、『四つのレストラン』(2015~)などなど。

 中でも『調理師試験』は二十年を超える人気番組だった。これはもともとは、素人たちにプロのシェフが助言する英国BBCの『もう調理に迷わない(レディ・ステディ・クック)』(1994~)のイタリア版として始まったものの、有名シェフと素人が対決したり、有名シェフとセレブがゲームをしたりする平日昼帯のヴァラエティに。

 ここで視聴者を魅了したのが、ジャンフランコ・ヴィッサーニ(1951~)。1964年、ティベレ川上流、ローマ市の北百キロところにダム湖ができてすぐ、彼の父親は、そのほとりに観光食堂『親方(パドリーノ)』を開店。彼は若くしてこれを手伝い、スポレート・ホテル専門学校に進学して、67年、「助調理師(アユート・クオーコ)」の資格を取得。

 レストランを経営するには、さらに二年学んで「調理長(カポクオーコ)」の資格を取らなければならないのだが、彼はコルティナダンペッツォ・ミラモンティ、フィレンツェ・グランドホテル、ナポリ・テレサ、ヴェネツィア・エクセルシオールで現場修行に励んだ。そして、73年、帰郷して親の店に戻ると、その腕前はたちまち評判となり、82年のイタリア・レストランガイド『レスプレッソ』で三つ星。85年、これを高級レストラン『カーサ・ヴィッサーニ(ヴィッサーニ館)』に改装すると、1998年に『ミシュラン』で星がつき、翌99年以降、ずっと二つ星にマークされてきた。

 ヴィッサーニはまた、90年代から、新聞やラジオで活躍。『緑の道』などのテレビ番組にも顔を出すようになり、2008年から先述の『調理師試験』のレギュラーとなって、国民的な人気を獲得。しかし、これとともに、雨後の竹の子のように、次世代の若手調理師タレントたちが続出して、似たり寄ったりの料理ショーを始める。

 とはいえ、ヴィッサーニは、その大御所として一目置かれ、平日午後帯のトークショー『遊びに来て(ヴィエニ・ダメ)』、2019年1月3日のゲストとして、次世代の調理師タレントたちを論評。その中で、『四つのレストラン』のモデレーター、アレッサンドロ・ボルゲーゼ(1796~)を、あんなのはテレビタレントで調理師じゃない、レストランも持っていないじゃないか、と猛烈に批判。ボルゲーゼも人気があっただけに、イタリア中で大きな論争に。

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純丘曜彰 教授博士

大阪芸術大学 哲学教授

美術博士(東京藝大)、文学修士(東大)。東大卒。テレビ朝日ブレーン として『朝まで生テレビ!』を立ち上げ、東海大学総合経営学部准教授、グーテンベルク大学メディア学部客員教授などを経て現職。

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