東芝の会社分割は本当に企業再生につながるのか?

画像: Joe Haupt

2021.12.16

経営・マネジメント

東芝の会社分割は本当に企業再生につながるのか?

日沖 博道
パスファインダーズ株式会社 代表取締役 社長

先ごろ注目された東芝の会社分割は、欧米の例とは違って、企業側の狙いは随分と視座の低いものだったようだ。しかしながら結果オーライになる可能性も少なくない。

東芝といえば、今年の4月に前CEOの車谷暢昭氏が古巣の英投資ファンドであるCVCキャピタル・パートナーズと組んで仕掛けた買収・非上場化策が「自己保身のため」と批判され、遂には辞任に追い込まれた騒動が記憶に新しい。その方策も、あまりにうるさい「モノ言う株主」の圧力から車谷氏が解放されたいがための奇策だったと推察されている。

車谷氏から再び経営のバトンを渡された格好の綱川智前会長・現社長を代表とする今の経営陣もまたこの半年、「モノ言う株主」の圧力に再びさらされてきたことは間違いないだろう。「どうやって企業価値を上げるのか、具体策を示せ。さもないと次の株主総会であなた方の再任はないぞ」と。

その際、会社(経営者)側が今回の分割案を発案したとは考えにくい。こうした金融財務に偏った方策を考え付くのは、いかにも「モノ言う株主」である投資ファンド会社の人たちの発想である。

つまり今回の会社分割策は、何とか投資回収策を模索していた「モノ言う株主」=投資ファンド会社が、東芝という素材を自分たち好みに調理して株主利益を最大化しようという思惑に溢れているものだ。言い換えれば、東芝という会社をよくしたいという発想ではなく、とにかくコングロマリット・ディスカウントを解消することで即効的な株式総額の増加という成果を得られると踏んだ、短期的視野から出た方策だと言わざるを得ない。

しかし、だからといってこの分割が事業体としての東芝にとってまったくメリットがないかといえば、そんなことはない。事業会社のフォーカスが絞られることで業績改善に向かう可能性は確実に高まる、と小生は考える。

はっきり言って、東芝の経営陣にとって東芝という企業はあまりに事業内容が多様で複雑過ぎたため、その図体を持て余していたと言える。それが故に特にこの5年前後の間、東芝の経営は大いに迷走してきた

それが会社分割されることで、2つの事業会社の各経営陣はそれぞれ、少なくとももう一方の事業体のほうの経営イシューからは解放される。また存続会社の一種の清算処理(キオクシアの株式などを管理しながら高値で売却する)という気苦労が多い仕事からも解放される。その分、自分たちが担当する事業に注意力を集中することができるようになる。

そうすれば顧客の事情や悩みもより深く知ることができ、より多く時間を使えるので解決のための知恵も湧くだろうし、事業配下の従業員の中の優秀な人材の発掘・抜擢もより適切・迅速にできるだろう。これこそがフォーカスの利点である。

結果的に各事業会社の業績は伸びる可能性は十分高く、トータルの株価総額もかなり改善するかも知れない。10年もすると今回の関係者からは「だから言ったでしょ」という自画自賛の声も聞かれるかも知れない。東芝社員のためにはそうなることを期待したい。
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日沖 博道

パスファインダーズ株式会社 代表取締役 社長

パスファインダーズ社は少数精鋭の戦略コンサルティング会社です。新規事業の開発・推進、そして既存事業の収益改善を主テーマとした戦略コンサルティングを、ハンズオン・スタイルにて提供しております。https://www.pathfinders.co.jp/               弊社は「フォーカス戦略」と「新規事業開発」の研究会『羅針盤倶楽部』の事務局も務めています。中小企業経営者の方々の参加を歓迎します。https://www.pathfinders.co.jp/rashinban/            最新著は『ベテラン幹部を納得させろ!~次世代のエースになるための6ステップ~』。本質に立ち返って効果的・効率的に仕事を進めるための、でも少し肩の力を抜いて読める本です。宜しければアマゾンにて検索ください(下記には他の書籍も紹介しています)。 https://www.pathfinders.co.jp/books/

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