いまどきの職業としての学問:若手に期待とチャンスを

2020.07.09

ライフ・ソーシャル

いまどきの職業としての学問:若手に期待とチャンスを

純丘曜彰 教授博士
大阪芸術大学 哲学教授

/若手研究者において「仕事が無い」は、二十年来の大問題だ。すでにポストを得て給与を食む者は、学界の将来のため、非常勤や出版、マスコミの記事や出演などの仕事を譲り、若手に期待とチャンスを与えてあげてはどうか。/

 もちろん、百年前、社会学者マックス・ウェーバーも、『職業としての学問』(1917)でも、ポストを得られるかどうかは、その人の研究成果ではなく、運と偶然で決まる、と言っている。また、このような若手研究者の閉塞状況は、大学予算に対する政治的削減もあって、日本だけでなく、海外各国でも日々厳しくなっていると聞いている。

 だが、自分のことを振り返れば、妙なジャマをする変な人もいなかったわけではないが、それでもどうにか研究者としてやってこれたのは、それ以上に、運と偶然、というより、ほんとうに良い先生方、先輩方との出会いと励ましがあればこそ。この年になると、そのことの感謝ばかり深く思う。

 たとえば、うちの大学の前放送学科長、いまは亡き岩崎富士男先生が、学内ですれちがうだけでも毎度、君には期待しているよ、声をかけてくださった。もちろん、ほかの人にも同じことを言っていたのかもしれないが、あれが教育者だと思う。亡くなってなお私を生かしてくれている。

 若手研究者には期待とチャンスが必要だ。いきなり彼らにカネやポストを与えろ、などとムリは言わない。しかし、せめて、いますでに大学にポストを得て安定した給与を食む者は、それ以上の欲をかかず、非常勤や出版、マスコミの記事や出演などの機会は、若手に譲ってはどうか。

 たとえば、近年だと、ちくま新書で『世界哲学史』全八巻が出たが、中堅以上の研究者の、個性の強い論文の寄せ集めになってしまっているために、残念ながら、大学の教科書、概説書などとして、あまり使いかってが良くない。もっと「教科書」的にニュートラルにまとめられる次世代の若手たちにこそ、このような意欲的な企画を委ねるべきだったのではないか。

 同様に、非常勤も、若手はあえて固定せず、任期付で、あちこちの大学を回転寿司のように巡って遍歴研鑽を積むことが大切だろう。そこでさまざまな大学の気風にふれ、また、その機会に学科以外の諸先生との出会いがあれば、縁も広がる。実際、公募にならない話、○○先生が他大学に転出しそうだ、とか、サバティカル(海外研修)で来年度だけ△△の講義に穴が開いている、とか、××大学では学内にも極秘で改組の話が進んでいる、とか、そういうまさに縁故の情報は、非常勤の講義後に気の合う先生の研究室でお茶をしていたりするときに、ふと耳にしたりするものだ。

 とにかくいま、このコロナ騒ぎで、副業の塾やカルチャーセンターの講師の仕事もめっきり無くなってしまっている。大学の状況も、文系の大教室一般教養講義ができなくなって、いろいろな意味で余裕がまったく無い。まして、一介の教員ふぜいにすぎない私に、なにかできるわけもない。だが、若手の研究者諸君、君たちには期待しているよ。あきらめるな。いつかチャンスは巡ってくる。

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純丘曜彰 教授博士

大阪芸術大学 哲学教授

美術博士(東京藝大)、文学修士(東大)。東大卒。テレビ朝日ブレーン として『朝まで生テレビ!』を立ち上げ、東海大学総合経営学部准教授、グーテンベルク大学メディア学部客員教授などを経て現職。

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