「採用学」批判(【連載27】新しい「日本的人事論」)

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2019.05.16

組織・人材

「採用学」批判(【連載27】新しい「日本的人事論」)

川口 雅裕
NPO法人・老いの工学研究所 理事長

組織・人事に関わる全ての施策は、日本人の特性や自社の独自性への洞察なしには機能しない。それは、OSが違えば、アプリが動作しないのと同じである。欧米の真似でもない、うまくいっている会社の真似でもない、日本企業において本当に機能する組織・人事の考え方や施策について思索・指南する連載。

営業だけではない。ビジネス全般に関して、最近、アカデミックなアプローチでビジネスを解明できる(ビジネスを上手くやっていける)わけではなく、結局のところアートに属するようなこと、いわゆるセンスに左右されるところが大きい、と考える人も少しずつだが出てきているようである。「世界のエリートはなぜ美意識を鍛えるのか」(山口周)や「経営の失敗学」(菅野寛)が売れているようだし、戦略論で知られる神戸大学の三品和広教授や一橋大学の楠木健教授も、経営者のセンス、属人的な個性や人間性がビジネスの結果に大きな影響を与えると強調している。そんな中、あえて学問的アプローチをもって採用を科学しようというのは意欲的ではあるし、新しいから(日本にはあまりなかったから)目立つのだが、上に述べたように行く末が見えてしまっており、実務家が興味を示したところで大して有用とは言えないだろう。

採用は、その成果が担当者のセンスに大きく左右される、極めて属人的な仕事である。たとえば、昔から面接に関して「自社で活躍している人材の要件に照らして、採用すべき人材の評価の観点や基準を明確にする」「思考や行動の特性が分かるような質問を用意する」「質問を構造化する」といった要諦がある。これらを学んで実施してきた会社も多いはずだ。ところが、そんなことで結果が良くなったりはしない。依然として、人の見極めは難しいし、欲しいと思った人材が他社に流れていく。これと思った人材が、期待したように定着し成長し活躍する確率が高まったわけでもない。

そもそも、あの河合隼雄先生でさえ「人の心などわかるわけがない」と述べておられるのに、私たち普通の人間が他者を理解できるはずはないのだが、さらに、新卒採用は学生時代の活動から仕事の能力を類推する(それも短時間で)という難事に取り組むわけで、多少、質問が上手になったからといって、人間という複雑体の前では焼け石に水である。(だから、面接で人を見抜けるなどというのは冗談にしか聞こえないし、河合先生がもし目の前におられたら恥ずかしいことだ。)

また、質問が上手いからといって、学生から重要な内容を聴き出せるわけでもない。なぜなら、学生は、信頼できる相手、親しみある面接官だと感じない限り、本当のことを十分な量でしゃべってはくれないからだ。いくらいい質問をしたとしても、その表情や身振り手振り、選ぶ言葉、醸し出す空気などが学生の気持ちを十分に和ませることができなければ、回答する情報は割愛された抽象的な内容に終わるだろう。もちろん、面接の質問が上手になっても、自社に入社を決めてくれるわけではない。入社の決め手は、面接官の質問力などではなく、たいていの場合、面接官が学生に与える印象の良し悪し、その場に流れる空気から感じる相性の良さ、提供する情報の個別性と表現力といったものになる。

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川口 雅裕

NPO法人・老いの工学研究所 理事長

「高齢社会、高齢期のライフスタイル」と「組織人事関連(組織開発・人材育成・人事マネジメント・働き方改革など」)をテーマとした講演を行っています。

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