「動物園のような会社」と「エコシステム」(【連載20】新しい「日本的人事論」)

画像: Daniel Jolivet

2018.12.13

組織・人材

「動物園のような会社」と「エコシステム」(【連載20】新しい「日本的人事論」)

川口 雅裕
NPO法人・老いの工学研究所 理事長

組織・人事に関わる全ての施策は、日本人の特性や自社の独自性への洞察なしには機能しない。それは、OSが違えば、アプリが動作しないのと同じである。欧米の真似でもない、うまくいっている会社の真似でもない、日本企業において本当に機能する組織・人事の考え方や施策について思索・指南する連載。

●エコシステムのインセンティブ

エコシステムの特徴は、そこに組み込まれた「インセンティブ」にある。エコシステムにおけるインセンティブは、金銭的報酬などのいわゆる外発的動機づけに分類されるものが極端に少ない。エコシステムのインセンティブには、まず「言動の自由」が挙げられる。規制やルールは少なく上司や権力も存在しないから、要求されたからやるのではなく、自分で考えて、自分で決定した行動をする。“やらされ感”ではなく“やりたい”という欲求で動ける状況は、人を大いに動機づける。次に、多様性によって生じる「自分らしい居場所」もインセンティブだ。それぞれに得意分野や強みが違うから、頼りにされるし、質問されるし、果たすべき役割が自然に決まってくる。同質な組織では役割があいまいになるので、椅子取りゲームが始まってしまうが、多様性があればあるほど居場所ははっきりしてくる。居場所とは、周囲からの承認を得た証であり、チームの一員であることを実感できるものであるから、これもいっそう人をやる気にさせる。そして、自由意思や自己決定に基づいた行動、明確な役割に基づいた行動によってチームに貢献した結果は、与えられた役割をいちいち指示されて行った貢献より、はるかに大きな心の報酬となる。

もちろん、役割が明確に割り振られ、その能力を発揮しなければならない状況はプレッシャーにもなるが、その結果として、またそれゆえに、エコシステムにはフリーライダーがいなくなる。相互の明確な期待(プレッシャー)は、「皆の行動や成果に乗っかるだけで何もしないような人」を減らしていく。このように、誰もがそれぞれに頑張っていると実感できる(だから自分もいっそう頑張ろうと感じられる)のも、エコシステムに存在するインセンティブである。また、このような内発的動機付けが機能しているチームや個人に対しては、金銭的報酬が逆効果になりかねないのが面白い。(アンダーマイニング効果)

●介入・調整システム

エコシステムと対照にあるのが、ルールや権限による統制を行う「介入・調整システム」である。自由意志や自己決定による行動はリスキーである(あるいは期待できない)と考え、就業・働き方・処遇、業務遂行・意思決定などに関してくまなくルールを張り巡らせ、フォーマルで確実な組織運営によってミスやトラブルや失敗を防ぎ、組織や人を守ろうとする仕組みと言ってよい。ルールや手続きが定められ、それに則った行動がなされるのでコンプライアンス上の安心があるし、“強みや得意”ではなく、“ルールに基づいた行動ができるか”という比較的容易な能力が問われるので、エコシステムのように人の淘汰や代謝が起こりにくい(から働く人たちも安心だ)。職務分掌が明確で、上席がいてその判断が常に優先されるから、部署間や関係者間の軋轢や葛藤は少なくなるし、組織が空中分解してしまうようなこともない。一言で言えば、“皆が安心のシステム”である。

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川口 雅裕

NPO法人・老いの工学研究所 理事長

「高齢社会、高齢期のライフスタイル」と「組織人事関連(組織開発・人材育成・人事マネジメント・働き方改革など」)をテーマとした講演を行っています。

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