コンセプチュアル思考〈第20回〉 コンセプトの精錬法[2]~視点の移動・創出

画像: Career Portrait Consulting

2017.02.01

組織・人材

コンセプチュアル思考〈第20回〉 コンセプトの精錬法[2]~視点の移動・創出

村山 昇
キャリア・ポートレート コンサルティング 代表

概念を起こす力・意味を与える力・観をつくる力を養う『コンセプチュアル思考』のウェブ講義シリーズ

また、引いて見るということは、何も物理的なことに限りません。時間的なことについてもいえます。目先の変化の激しい時代に生きる私たちは、短い時間単位で物事をとらえる傾向がますます強くなっています。が、そういう時代であればこそ、もっと長い時間単位に引いたところからながめることで、新しいとらえ方に出合うときがあります。

さまざまな分野の識者が集う民間のシンクタンクであるローマクラブは、1972年『成長の限界』というレポートを発表しました。地球環境を100年、1000年の単位からながめ、人類の科学が信奉する「無限の成長」という概念に警鐘を鳴らし、「成長には限界がある」とのテーゼを提示しました。「サステイナブル(持続可能な)な地球」というコンセプトをいち早く世界に打ち出し、惑星レベル、文明レベルで環境問題へ視点を置いたその卓越さは、いまなお色あせません。


◆2-d)観点を起こす

柳宗悦は『民藝(民衆的工芸)』という概念の生みの親です。柳は日本とアジアの各地を回り、その風土から生まれた生活道具のなかに、用に則した「健全な美」を見出しました。それまでだれも見向きもしなかったところに、新しい「美の見方」や「美の価値観」を提示し、『民藝』という一つの芸術ジャンルをつくり出したのです。

そのように、何もなかったところに一つの観点を起こし、ある概念を打ち立てていくのが視点創出です。

ビジネスの世界でいえば、『味の素』は恰好の事例でしょう。味の基本要素が「甘味・塩味・酸味・苦味」の4つとされていたときに、池田菊苗博士は「だし」のおいしさに関心を寄せていました。そこに何か別の新しい基本味があるのではないかという観点を起こしたのです。そして昆布の煮汁から「うま味」成分を取り出すことに成功しました。そして大量生産の技術を確立させ、今日では調味料の一大分野となっています。

『民藝』にしても『味の素』にしても、ロジックからそれが生まれたのではありません。直観によって観点を起こすのが先にあり、科学的分析や論理が後からついてきて、発見・創造を助けたのでした。この順序はとても重要です。1981年にノーベル化学賞を受賞した福井謙一氏は次のように言っています───

「結局、突拍子もないようなところから生まれた新しい学問というのは、結論をある事柄から論理的に導けるという性質のものではないのです。では、何をもって新しい理論が生まれてくるのか。それは直観です。まず、直観が働き、そこから論理が構築されていく。
(中略)
だれでも導ける結論であれば、すでにだれかの手で引き出されていてもおかしくはありません。逆に、論理によらない直観的な選択によって出された結論というのは、だれにも真似ができない」。 ───『哲学の創造』PHP研究所より


ほんとうに独自なものを生み出すには、ロジックを超えて、直観という飛躍が必要になります。その直観の世界のひらめきはコンセプチュアル思考が担う分野です。





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村山 昇

キャリア・ポートレート コンサルティング 代表

人財教育コンサルタント・概念工作家。 『プロフェッショナルシップ研修』(一個のプロとしての意識基盤をつくる教育プログラム)はじめ「コンセプチュアル思考研修」、管理職研修、キャリア開発研修などのジャンルで企業内研修を行なう。「働くこと・仕事」の本質をつかむ哲学的なアプローチを志向している。

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