会社のカネは誰のもの? ビジネス・ジャッジメントルールと会社財産を危うくする罪

画像: midorisyu

2016.08.04

経営・マネジメント

会社のカネは誰のもの? ビジネス・ジャッジメントルールと会社財産を危うくする罪

山岸 純
弁護士法人ALG&Associates 弁護士・税理士

事業がうまくいかない時、良からぬブローカーが「バラ色の一発逆転ホームラン的な投機話」を持って来たことはありませんか? 社長なら、会社の財産をどう使おうと文句を言われる筋合いはない、とお考えになったことはありませんか? 実は、大きな大きな”落とし穴”がある場合があります。 今回、「ビジネス・ジャッジメントルール」と「会社財産を危うくする罪」という観点から説明していきたいと思います。

 一世一代で築き上げたかわいい我が社だけに、「社長である以上、なんだってできるはず。会社の財産をどう使おうが社長の自由」と思っていらっしゃる経営者の方も少なくないと思います。

確かに「代表取締役」は、会社法349条4項により「株式会社の業務に関する一切の裁判上または裁判外の行為をする権限を有する」と規定されていますので、利益を追及するために、会社の「財産」、「労働力」、「ノウハウ」などを利用して事業活動の一切を遂行することができます。

したがって、「業務」という名目であれば、会社の「財産」をどう使おうが自由、という発想も間違いではないかもしれません。

しかし、最近、経営者の放漫経営が原因で会社財産が減損したことを理由に株主らが会社に対し損害賠償を請求したり、経営判断の失敗により株価が下がったことを理由に損害賠償を請求したりする、といった事件が報道されています。

もちろん、これらの裁判はあくまで「民事」の話ですから、裁判所が会社に対し損害賠償の支払を命じる判決をした場合であっても、懲役〇年や罰金〇〇万円といったように、前科がつく話ではありません。

要するに、ちょっと経営に失敗して株主にワイワイ言われたとしても、所詮、カネさえ払えばすべてが許される、ということなのかもしれません。

果たして、本当にそうでしょうか。今回は、「ビジネス・ジャッジメントルール」と「会社財産を危うくする罪」という「刑事罰の適用の有無」という視点から説明をしていきます。

取締役の経営責任

一説には、「株式会社」は17世紀の大航海時代に誕生したとされています。貴族たちのようにカネはあるが手は動かしたくない人たちと、カネはないがチエと労力を提供できる人たちの利害が一致し、「カネがある」人たちが「株主」となり「チエと労力がある」人たちを「取締役」として経営を任せたというのが始まりのようです。

このように、「株式会社」は、その制度上、

「株主」=自分の財産を会社に提供して、会社を通じて取締役に対し事業活動による利益の追及を委任し、事業活動の結果によって得られる利益を獲得するもの

「取締役」=会社を通じて株主から依頼を受け、事業活動を遂行して利益を実現し、これらの利益を株主に還元するもの

という関係にあります。

とすると、取締役ら経営者が事業活動に失敗し、せっかく株主が提供した財産を減損してしまった場合、何らかの責任を取らせるのは当然と考えることができます。

Ads by Google

この記事が気に入ったらいいね!しよう
INSIGHT NOW!の最新記事をお届けします

山岸 純

弁護士法人ALG&Associates 弁護士・税理士

専門は企業法務ですが、国境を越えた家族問題やマンション管理問題など、幅広い分野に取り組んでおります。 時事ネタをくだいてくだいて解説するのが大好きです。 現在、宮内庁における外部通報業務に奉職中。

フォロー フォローして山岸 純の新着記事を受け取る

一歩先を行く最新ビジネス記事を受け取る

ログイン

この機能をご利用いただくにはログインが必要です。

ご登録いただいたメールアドレス、パスワードを入力してログインしてください。

パスワードをお忘れの方

フェイスブックのアカウントでもログインできます。

INSIGHT NOW!のご利用規約プライバシーポリシーーが適用されます。
INSIGHT NOW!が無断でタイムラインに投稿することはありません。