「介護離職ゼロ」のために優先すべきは介護スタッフの待遇改善

画像: 3D Eye

2015.11.11

経営・マネジメント

「介護離職ゼロ」のために優先すべきは介護スタッフの待遇改善

日沖 博道
パスファインダーズ株式会社 代表取締役 社長

政府は、「1億総活躍社会」に向けた「介護離職ゼロ」実現のための具体策として、特別養護老人ホームなどの介護施設を増やすため、首都圏の国有地90ケ所を早ければ年内にも事業者に安く貸し出す方針だという。これはないよりはましだが、優先すべき政策ではない。

この3つ目は、1つ目から来る「体力のある若いうちしかできない仕事」という不安と、2つ目からくる「将来になっても給与や待遇があまりよくならないのではないか」という不安を足したようなものではないかと推察できるので、根は先の2つと同じである。世間的に「介護職は離職率が高い」というイメージも作用していよう(実は全産業平均と比べて実際の離職率にそれほど差があるわけではない)。

売り手市場になった今、わざわざそんな職場を選んでくれる奇特な人たち(そして選ばせる家族)は多くないということだろう。このイメージを変えないことには介護スタッフは全く不足したままであり、介護施設はなかなか増設できないのである。

そして厄介なことに、そのイメージは必ずしも間違ってはいないのである。介護職員の平均給与が他の似たような職業に比べ割安なのは事実である。2015年11月7日の日経新聞の記事によると、福祉施設の介護員の月給は2014年の全国平均が常勤で21万9700円と、全産業平均の32万9600円より約11万円低いとある(厚労省の統計によるとのこと)。昨今増えている非正規雇用のスタッフであれば、さらに一段と安い給与で働くのが実態だ。

大半の施設において介護職に夜勤がつきものであることも事実である。また、排泄物の処理やおむつ替えなどの「下の世話」をすることや、入浴を手伝う際などに風呂場まで老人を抱えることも、職場によっては日常業務の一環である。

こうした事実・実態を踏まえた上で、それでも日本社会としては、介護施設にて働くスタッフの数を増やし、彼らが健康で不安の少ない社会生活を営めるようにしなければならない。そのためには介護スタッフの待遇を大きく改善するよう、政策的に誘導する必要がある。イメージを改善するだけではダメで、実態をよりよくしないといけないのである。

まず根本的には介護スタッフの給与水準を底上げする必要がある。社会的な期待と要請が高い職業なのに、いくら若い人が多いからといって全産業平均を大きく下回る現状は許されるものではない。

介護報酬制度を司る厚労省、そしてその背後で予算を握る財務省は、国家財政事情が厳しいからと今年4月からの介護報酬(つまり介護法人に対する支払い額)引き下げを実施したが(その際には介護職員の処遇改善を要望してはいたが)、それが長い目で介護スタッフの給与水準や労働環境の改善に対しネガティブな方向に働くことは容易に想像できる。あまりに目先のことしか考えていない策だ。

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日沖 博道

パスファインダーズ株式会社 代表取締役 社長

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