消費税論議にみる財務省の深謀遠慮

画像: 財務省HP

2015.09.29

経営・マネジメント

消費税論議にみる財務省の深謀遠慮

日沖 博道
パスファインダーズ株式会社 代表取締役 社長

財務省案の評判は散々である。確かに「軽減税率に関する代替案を提示せよ」というお題からは外れている。しかし「与党の議論を振り回す」という隠れた目的は既に達成している。そして真の目的である「軽減税率の導入」へと議論は向かいつつある。財務省の筋書き通りに事は進んでいるのではないか。

決して「社会的弱者への配慮」などという理由ではなく、与党・公明党への政治的配慮でも当然なく、また「軽減税率を導入することで将来、さらなる増税が必要になった際に社会的に受け入れられやすくなる」という政策的判断が主たるものでもない(最後のは多少はありそうだが)。

「軽減税率」というものは線引きが難しく、大概の導入国ですったもんだの議論を呼んできた歴史がある。実際日本でも、軽減税率導入に関する与党協議がまとまらないため、財務省に一旦下駄を預けたからこそ、こんな事態を招いているという経緯がある。

もし「軽減税率」の導入が正式に決まり、しかも線引きに関しては例えば「生活必需品に適用」(これが落し処の本命)という方針が決まったら、実務的素案づくりは一旦財務省に任されるはずである(その後、正式には政治家による決裁が幾段かに分けて下される格好ではあるが)。

すると幾多の業界から「我々の製品(またはサービス)は軽減税率の対象にして欲しい」と、財務省詣でが始まることはほぼ確実だ。課税対象となるか否かは各業界にとっては死活問題であり、財務省は天下り先確保という利権が一挙に増えるという仕掛けだ。

さて、ここまでで財務省が「消費税増税推進」かつ「軽減税率導入賛成」の立場であることが理解できたと思う。この認識の上で、財務省が稚拙な案をこの段階で出してきた狙いは何か、考えてみていただきたい。小生は2つあると思う。

一つは、目くらましとしての財務省案を否定させた上で、最終的にはそれよりはずっとましな策として「軽減税率の導入やむなし」と自民党も世論も納得させること。これが主な狙いだろう。

実際、既に与党の議論は今や「財務省案か、軽減税率か」に収れんされ、大新聞や色んな識者が「軽減税率こそが唯一の解決策」だという論調に統一されつつある。

軽減税率に大反対してきた日本商工会議所、全国商工会連合会などの中小企業団体、日本チェーンストア協会などの小売り団体も、その声に押されて軽減税率に消極的だった自民党の政治家たちも、少しずつ外堀を埋められているのを感じているのではないか。

うまくいけば、小規模業者に益税を吐き出させる仕掛けとして有効な「インボイスの義務化」まで達成できるかも知れない。とはいえインボイス方式の導入というのは、財務省にとっては賛成してもよいが、そのために議論が紛糾するくらいなら、交渉条件として提示しておいて最終的には引っ込めてもいいと考えている程度の本気度ではないか。

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日沖 博道

パスファインダーズ株式会社 代表取締役 社長

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