エアアジア・ジャパン不振の原因は結局何だったのか

画像: Alec Wilson

2013.08.26

経営・マネジメント

エアアジア・ジャパン不振の原因は結局何だったのか

日沖 博道
パスファインダーズ株式会社 代表取締役 社長

日本で本格的なLCC(格安航空会社)3社が就航して1年が過ぎ、その明暗がはっきり出ている。エアアジア・ジャパンの苦戦の理由として関係者やアナリストが指摘するものは、いずれも十分納得できるものではない。

現実問題として、エアアジア・ジャパンの予約システムはエアアジアのものを踏襲しており、プロセス面でもシステム的にも練れているはずからである。アジアの人々に簡単に使えるのに日本人には使いこなせないということはなかろう(日本語表記の問題は残るが)。

アクセスが集中した際にエラーが頻発する問題が足を引っ張った可能性はありそうだが、実は同様の問題は同じ初年度のピーチにもジェットスター・ジャパンにも結構起こっているらしい(ネット上にそうしたコメントがかなりある)が、両者は搭乗率で健闘しているのである。つまりシステム処理能力がエアアジア・ジャパンの不振の主因になった可能性も低い。

多くのアナリストたちが指摘するのが、成田空港を拠点にしていることによる低コスト追求の難しさである。

24時間体制でない成田空港は発着時間帯が限られ、遅延が積み重なれば便のキャンセルを生じかねないため、所有機をフル稼働させたいLCCとしては使い勝手が悪い。それなのに世界有数の高額な空港使用料を請求される、LCCにとって実に儲けにくい空港なのである。

これは24時間稼働の関西空港をベースにするピーチが一番好調である理由にはなるが、同じ成田を拠点にして好成績を上げているジェットスター・ジャパンを前に、この言い分は通用しないだろう。

アナリストたちが挙げていたもう一つの要因は「エアアジア」ブランドが(東南アジアでは有名とはいえ)日本では浸透していなかったのではないかという点だ。

これはジェットスター・ジャパン就航前からジェットスター本体が日本に就航していたのに比べ不利な点といえようが、ピーチが全くゼロから始めて結果を出しているのだからやはり言い訳に過ぎない。実際、「バニラ・エア」にブランド変更することで、もう一度ゼロからのスタートをする覚悟を決めた同社にとっては、その要因は小さいと割り切ったはずだ。

それ以外に関係者が理由として挙げているのは、エアアジアCEOのトニー・フェルナンデス氏が指摘している「ANAのような伝統的な航空会社出身の人間がLCCの幹部にいることでの動きの悪さ」と、社内の人が指摘する「合弁企業ならではの意思決定のもたつき」である。

伝統型の航空会社の経営とLCC経営が全く異なることも頷けるし、合弁会社の経営が難しいことは一般的にも認識されている(実は小生もその体験者である)。しかし好調のピーチ・アビエーションがANAと投資会社の合弁子会社で、ANA出身者が経営陣を占めること、ジェットスター・ジャパンもJALと三菱商事そしてカンタス航空の合弁である事実を考えれば、エアアジア・ジャパン不振の主因として単純には頷けない。

結局、エアアジア・ジャパンが「ダッチロール」したまま経営を立て直すことができなかった主因は環境的な条件や形式の問題ではなく、親会社間での主導権争いが生じ、互いに不信感を深め、経営の方向性で一致団結できないために効果的な手を打てなかったという「内部事情」に尽きるのではないか。

その意味で、早めに「成田離婚」し、100%子会社として再出発することは間違いではないのかも知れない。

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日沖 博道

パスファインダーズ株式会社 代表取締役 社長

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