教え合う仕組みづくり・組織作りによる人材育成効果を考える。
「この人はプロであり育てる側の人」、「この人は素人であり育てられる側の人」という色分けが(無意識でも)なされている会社や組織は、非常に多くあります。まるで、学校における先生と生徒のように“教える人”と“学ぶ人”という役割を固定してしまう、例えば、課長以上の管理職は“教える(育てる)側”で、それより下の人間は“教えられる(育てられる)側”、と位置づけているような組織です。マネジメントの目的の一つは人材育成でありますので、教えよう、育てようという意識や行動は良いのですが、かと言ってこのように役割を固定してしまうと、意に反して育成の効果が限定的になってしまうというのが難しいところです。
当然のことですが、課長が全ての分野で知識も技術もメンバーより優れている、ということは有り得ませんし、課長より次長が、次長より部長が全ての分野でレベルが高い、などということもありません。人事制度において能力等級が設定され、例えば1級、2級、3級・・・・と上がっていくような仕組みがあったとして、等級が上である人が下の人が持っている知識を全ての分野で上回っているわけはなく、下の人が出来るようなことは上の人も全て出来るということもありません。
現実には、強みや得意分野はそれぞれがバラバラに持っていて、目に見えないので分かりにくいものの能力は組織内部で常に多様な状態です。なのに、教える側と学ぶ側という役割を固定してしまうと、“学ぶ側”とされた人達は学ぶだけになるので、せっかく持っている強みや得意が披露されることなく、それらが埋もれてしまいます。また、“教える側”とされた(もしくは思い込んだ)人達は、教えることを探そうとするために、“学ぶ側”の人達の弱みや不得意ばかりに視点が集中してしまいますし、自分の弱みや不得意を見ようともしなくなります。せっかくの強みや得意が埋もれ、気づくべき弱みや不得意が無視される・・・これは、実にもったいないことです。
「強みや得意分野はそれぞれがバラバラに持っていて、能力は組織内部で常に多様な状態だ。」という前提に立つと、全ての人が、ある時は教える側になり、ある時は学ぶ側に回るようにすべきでしょう。組織全体の能力を高めるためには、分野によって、状況に応じて適切な人が階層などには関係なく講師になり、コンサルタントになる状態こそ望ましい姿であると言えます。互いの強みや得意を認め合い、それを階層や部署を越えて教え合えるような組織を作ること。人材育成を考えるなら、自分が直接教えるだけでなく、教え合う仕組みや風土をつくることが非常に重要であるということです。
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NPO法人・老いの工学研究所 理事長
高齢期の心身の健康や幸福感に関する研究者。暮らす環境や生活スタイルに焦点を当て、単なる体の健康だけでなく、暮らし全体、人生全体という広い視野から、ポジティブになれるたくさんのエビデンスとともに、高齢者にエールを送る講演を行っています。