紙カタログは死なない!

90年代、ネットが世に出てきた頃、紙からデジタルへの移行が叫ばれた。2000年代も終わりに差し掛かってきた今日、デジタル化は必ずしも旧来型メディアの死を意味するのではなく、むしろ、新しい形の創造、イノベーションを触発している・・・。

ザッポスが紙媒体のホリデー・カタログを発行して、ちょっとした話題になっている。「ザッポス・ライフ(Zappos Life)」と銘打たれたこの紙カタログは、単なる商品紹介媒体に留まらず、読み物コンテンツと遊び心溢れる写真を組み合わせたマガログ形式で、「ザッポス・ライフスタイル」を効果的に訴求する。

ザッポスが紙カタログを発行するのは、今年になってから四回目だという。「アクティブ」、「カジュアル」という、ライフスタイル・カテゴリーで括ったものが二種、そして、「バック・トゥー・スクール(新学期準備号)」と今回の「ホリデー・ファッション」という季節がらみのテーマのものが二種。来年も、四半期に一度くらいのペースで紙カタログを発行していくというから、どうも、「カタログ通販業」の展開には本気のようだ。

そういえば、本の執筆のために、2008年9月にザッポスを訪れた時に、「ザッポス・ライフ」の最新号が出たばかりだった。その当時は発行数はさほど多くなかっただろうし、半ば実験的なものだったのだろうが、「ネット企業が紙カタログとは・・・」と珍しく思って二部ほど貰ってきたことを覚えている。

90年代の終わりから2000年代の初頭にかけて、従来で言われるところの「カタログ通販」業者がオンライン・ショップの展開や店舗展開を始めて話題になった。そのひとつの理由は、複数の購買チャネルに跨って買い物をする「マルチ・チャネル・ショッパー」が、単一チャネル・ショッパーに比べて段違いにハイ・リターンであることが立証されてきたからだ。

また、チャネル間を行き来する顧客の「動線」の研究も進んできた。今日、「ウェブ→店舗」や、「店舗→ウェブ」、あるいは、「カタログ→ウェブ→店舗→ウェブ」など、購買のリサーチ・ステージから発注ステージまでが複数のチャネルを行き来する形で行われることは珍しくない。

どの媒体に購買意欲を刺激されるか、その嗜好は、個々の顧客によって異なる。ネット通販業者としてのルーツに固執せず、ともすると、「時代への逆行」と見られがちな紙カタログの発行に手を染めるのは、「個のサービス体験」を追及するザッポスらしい。お客様に「最高のサービス体験」を提供するためなら、紙カタログであろうとネットであろうと、媒体へのこだわりはザッポスにはない。

しかし、拙著、『ザッポスの奇跡』の中にも書いたように、ザッポスは驚くほど、「指標徹底型(メトリックス・インテンシブ)」な会社である。紙カタログの発行についても、ページ数から使用紙の重さに至るまで、あらゆるパラメーターに対する成果測定に余念がない。聞くところによると、紙カタログで購入する顧客の平均発注額は、同社ウェブサイトでの発注額の2倍を上回るという。また、紙カタログによるマーケティングは、休眠顧客の蘇生に大いに効果を発揮しているとも聞く。

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石塚 しのぶ

ダイナ・サーチ、インク 代表

南カリフォルニア大学修士課程卒業。米国企業でNASAプロジェクトなどに関わり経験を積んだ後、82年にダイナ・サーチ、インクを設立。以来、ロサンゼルスを拠点に、日米間ビジネスのコンサルティング業に従事している。著書に「アメリカで『小さいのに偉大だ!』といわれる企業の、シンプルで強い戦略」(2016年4月、PHP研究所)、「未来企業は共に夢を見る~コア・バリュー経営~」(2013年3月発売)、「ザッポスの奇跡 改訂版 - アマゾンが屈した史上最強の新経営戦略」、「顧客の時代がやってきた!売れる仕組みに革命が起きる」などがある。

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