経験から学べること、学べないこと

2008.05.07

仕事術

経験から学べること、学べないこと

猪熊 篤史

経験が重要なことは理解出来るが、経験から学べることと学べないことがある。経験主義の功罪について考えてみたい。

経験が重要なことには説得力がある。行動しなければ、売り上げが上がらず、価値も生まれず、顧客満足も得られず、具体的な改善の余地も見えてこない。行動しなければ経験は生まれない。成功した経験はそれ自体賞賛に値する。また、成功の経験は、良い研究事例、見習うべきお手本、ベストプラクティスとして価値がある。失敗の経験は、それ自体賞賛には値しないが、避けるべき具体例、悪いお手本、反面教師として価値がある。

行動、そしてそれに続く経験、しかも、より直接的で、より新しい経験が重視されるのは納得出来る。顧客の嗜好の変化、技術の進歩、社会の変化などによって過去の経験は、古くなり、もはや正しくないこともあるだろう。また、過去の経験則にとらわれずに新しい世界を切り開いていくという姿勢、思考、マインドは評価されるものである。

「世界を変えられると信じなさい」

これはパソコンやプリンターなどの情報機器において日本でも存在感を高めているアメリカのハイテク企業、ヒューレットパッカード(HP)のカーリー・フィオリーナ会長(当時)が掲げた「ガレージのルール(Rules of the Garage)」の最初にあげられている社員の行動規範である。

信念を持った行動と経験の積み重ねなしに世界は変らないことだろう。

しかし、経験を凝縮した一般的な理論や信頼出来る第三者の経験則が重要でないわけではない。行動や直接的な経験が重要だとしても、理論や第三者の経験則から学べることも多い。

15世紀半ばに発明させた活版印刷機が聖書が量産するなどルネッサンス文化の開花に大きく貢献したように、優れた知識、経験則、理論を共有すること、共有出来ることの意義は大きい。

なぜ、理論や経験則の共有が促進されないのか?その理由は次のようなものだろう。

1.営業や販売を重視する立場から、行動と、より直接的な経験、より最近の経験を評価する傾向がある。(挑戦や行動を尊重する文化を育む反面、知的な資産を軽視する風潮を生む)

2.年功者が築いてきた地位、または、より経験の多い者の威厳を堅持しようとするため。(年功主義)

3.情報・ノウハウの自社独占や社内秘密主義が強いため。(雇用の非流動性、組織の慢性化、社会的責任の欠如)

4.組織的な偏狭性による。(劣等意識、固執、協調を乱す悪い意味での反骨)

若年者を鍛えるためや営業的なかけ引きであればまだ理解出来るが、理論の軽視が、思考の放棄である場合は改善が必要である。

理論や第三者の経験則によって行動や経験を補うことと、行動と経験から理論(経験則)を導き、高め、共有することは同等に重要である。

「走りながら考えること」、「考えながら走ること」が大切である。「走ること」と「考えること」のどちらが欠けても不十分である。

スタイルや程度は組織の状況や環境によって異なるが、行動・経験と理論・経験則のバランスを実現できない組織は、中長期的な組織の成長や存続が困難になる。

【V.スピリット No.6より】

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