私たちは、競争優位性が時間とともに縮小し、消えていく運命にあること、そして、共創優位性という「顧客と育つ」構造への土俵の移行が、成熟市場における必然であることを確認してきました。 「理屈は分かる。でも、実際には難しい」 実際、多くの企業が、「顧客と長期的な関係を築きたい」「伴走型のビジネスに転換したい」「価格競争から抜け出したい」と語ります。ところが現場に戻ると、値引き交渉、要望対応、短期KPIの議論に引き戻されてしまうのです。
これは、現場の従業員の意志の弱さではありません。構造の問題です。共創に移れない企業の多くは、「顧客の期待」を、最後まで構造として扱えていないのです。
共創の正体は、「良い関係」ではなく「ズレない構造」にある
競争の世界では、顧客の期待は「結果として評価されるもの」です。顧客が満足したか、不満はなかったか、クレームは起きなかったか、といったように、体験の後に測定されます。競争優位性は、その終着点が「比較検討」と「クロージング」に設定されているがゆえに、常に疲弊と次なる差別化を強いられるという呪縛を抱えています。
一方、共創の世界では、期待は「事前に設計・運用すべき対象」になります。共創優位とは、単に仲良くすることでも、頑張ることでもありません。期待がズレない構造を、先につくることです。
共創が成立している企業は、期待を事後的に処理するのではなく、順序を逆転させます。
• 顧客はどんな未来を思い描いているのか。
• その未来像に、どんな誤解や過剰な期待が含まれているのか。
• どこでズレが生まれやすいのか。
こうした問いを設定することで、ズレやすい期待を先に言語化し、過剰な期待は事前に冷まし、顧客の未来像を最初から共有します。ここを扱えない限り、どれだけ「寄り添って」も、関係は徐々に競争に戻ってしまうのです。
共創に失敗する企業は、期待を「後処理」している
多くの企業は、期待を「ズレたら説明する」「不満が出たら謝る」「問題が起きたら改善する」といった事後対応として扱っています。これは競争OSにおける「期待インフレ」の罠にも繋がります。顧客のために動いたはずが、企業が改善すればするほど、顧客の期待の基準線が上がり、「期待値だけ」が青天井に積み上がってしまうのです。
競争から共創への分岐点は、期待を「マネージメントする対象」として扱えるかどうかにあります。期待をマネジメントする対象として扱い、その設計図を持つ企業こそが、説明も、値引きも、失望も、そもそも起きにくい構造をつくれるのです。
ここで「事前期待」という視点が決定的に効いてくる
この「共創が続かない問題」を、真正面から扱っているのが書籍『事前期待』です。
本書が問い直しているのは、「顧客は、契約や購入の前に、どんな期待を、どのように抱いているのか」という極めてシンプルな問いです。多くのトラブルや失望、価格競争は、この「事前期待」が意識されないまま取引が始まることで生まれています。
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2015.07.10
2009.02.10
サービスサイエンティスト (松井サービスコンサルティング)
サービスサイエンティスト(サービス事業改革の専門家)として、業種を問わず数々の企業を支援。国や自治体の外部委員・アドバイザー、日本サービス大賞の選考委員、東京工業大学サービスイノベーションコース非常勤講師、サービス学会理事、サービス研究会のコーディネーター、企業の社外取締役、なども務める。 【最新刊】事前期待~リ・プロデュースから始める顧客価値の再現性と進化の設計図~【代表著書】日本の優れたサービス1―選ばれ続ける6つのポイント、日本の優れたサービス2―6つの壁を乗り越える変革力、サービスイノベーション実践論ーサービスモデルで考える7つの経営革新
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