なぜ、同じ行動をしているにもかかわらず、ある人の評価は高く、別の人は低くなるのか。ビジネスの現場では、この“不可思議なズレ”が日常的に起きています。
営業であれば、同じ説明をしているのに「分かりやすい」と言われる人と「くどい」と言われる人が存在する。マネージャーであれば、同じ指示を出しても「丁寧で助かる」と受け取られたり、「細かすぎて窮屈だ」と感じられたりする。店舗スタッフであれば、同じ声掛けで「親切だ」と言われることもあれば、「放っておいてほしい」と流されることもある。
行動は同じ。けれど評価は違う。
この現象を生む本質が、「事前期待」という構造にあります。
評価は“行動”ではなく、“事前期待 × 行動”で決まる
ビジネスにおいて評価を左右するのは、行動そのものではありません。行動が相手の事前期待に一致した瞬間にだけ、成果・評価・信頼が生まれます。逆に言えば、どれほど正しい行動でも、事前期待を裏切った瞬間に失点になる。これは多くのビジネスパーソンが経験的に知っているはずです。
事前期待の存在を明確に示す例を挙げてみましょう。
・料理をすぐ提供してほしい客に「ゆっくりどうぞ」と言えばズレる
・急いで意思決定したい顧客に丁寧な説明を重ねても嫌がられる
・自由に選びたい来店客に積極的な提案をすれば距離を置かれる
行動そのものの良し悪しではなく、「相手が何を事前期待していたか」これだけで評価は180度変わります。つまり、成果は「事前期待× 行動」という構造で決まるのです。
事前期待は“マネジメントできる”。だから評価も“設計できる”
ここで重要なのは、事前期待は与えられたものではなく、こちらから設計し、形成することができるという点です。相手が不安を抱えたまま誤解し、事前期待と行動がズレることを防ぎ、より正確な価値を受け取ってもらうための“正しい設計”です。
事前期待を設計する典型的な例を挙げます。
たとえば営業で「今日は10分で要点だけをお伝えします」と冒頭で宣言した場合、顧客はその後の説明を「10分で終わるもの」として受け取ります。同じ説明をしても、相手の事前期待が正しく形成されているため、評価は安定する。
逆に「今日はじっくり話を聞いてほしい」という顧客であれば、「まず全体像を共有します。後半で不安点を一つずつ解消します」と構造を示すことで、事前期待を形成できる。
事前期待は放置すればズレる恐れがあるため、設計することで事前期待を形成し、行動と一致させる努力が重要です。
なぜ事前期待を設計するだけで、評価が安定するのか
事前期待とは、相手の中に存在する“無言の採点基準”です。それは言葉では語られないまま、
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2015.07.10
2009.02.10
サービスサイエンティスト (松井サービスコンサルティング)
サービスサイエンティスト(サービス事業改革の専門家)として、業種を問わず数々の企業を支援。国や自治体の外部委員・アドバイザー、日本サービス大賞の選考委員、東京工業大学サービスイノベーションコース非常勤講師、サービス学会理事、サービス研究会のコーディネーター、企業の社外取締役、なども務める。 【最新刊】事前期待~リ・プロデュースから始める顧客価値の再現性と進化の設計図~【代表著書】日本の優れたサービス1―選ばれ続ける6つのポイント、日本の優れたサービス2―6つの壁を乗り越える変革力、サービスイノベーション実践論ーサービスモデルで考える7つの経営革新
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