三菱商事の洋上風力撤退は、日本のエネルギー戦略が岐路に立っていることを象徴している。大規模集中型モデルの限界を直視し、小型化・分散化を軸にした「地産地消」の仕組みへと舵を切るべき時期が来ている。
その反省から、世界の潮流は「小型化」へと移りつつある。小型モジュール炉(SMR: Small Modular Reactor)は、従来の原発に比べて出力を大幅に抑える一方で、安全設計を徹底した新世代の原子力技術である。
冷却系統のシンプル化や受動的安全機能の導入により、災害時にも暴走リスクを極小化できるとされる。現在、米国や欧州、中国など世界各国で研究開発が急速に進んでおり、2030年代には商用化が進展する可能性が高い。
SMRは数万世帯規模の電力を供給できる出力を持ちつつ、工場でモジュール生産が可能であり、必要に応じて複数基を組み合わせられる「レゴ型」電源でもある。
こうした小型安全な原子力を地域単位で導入することは、再エネの不安定さを補完しつつ、日本社会の大きな負担となり日本経済の大きな不利要素となっている化石燃料依存を減らす現実的選択肢となり得る。
4. 地産地消型エネルギー供給への転換
小型風力、小水力、SMR——これらに共通するのは「小型化」と「分散配置」という方向性である。
従来のように巨大な発電所を一カ所に建設し、長距離送電網を通じて遠隔地へ供給する仕組みは、(送電設備を含む)設備の建設費もメンテナンス費も膨大であり、送電過程でのエネルギーロスも無視できない。冷静に社会全体を眺めれば、我々は壮大な無駄を長年続けてきたのだ。
いま求められているのは、電源を消費地の近くに分散設置し、地域で生み出した電力を地域で消費する「地産地消型エネルギーシステム」への思い切った転換である。
これにより、災害時のエネルギーレジリエンスが高まり、送電ロスの削減、地域雇用の創出、そしてエネルギー自立による地方経済の安定といった多面的なメリットが得られる。
大規模集中型エネルギーから小規模分散型エネルギーへ。この発想の転換こそが、次世代のクリーンエネルギー戦略には不可欠だ。
5.結論
三菱商事の洋上風力撤退は、日本のエネルギー戦略が岐路に立っていることを象徴している。大規模集中型モデルの限界を直視し、小型化・分散化を軸にした「地産地消」の仕組みへと舵を切るべき時期が来ている。
風力、水力、原子力のいずれも、小型化技術はすでに現実の選択肢となりつつある。これらを地域ごとに適材適所で組み合わせ、送電ロスを抑え、災害にも強いエネルギー網を築くことこそが、持続可能で安全な日本の未来を支える。
「地産地消エネルギー」こそが、これからのクリーンエネルギー政策の核心である。社会インフラ・制度
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パスファインダーズ株式会社 代表取締役 社長
「世界的戦略ファームのノウハウ」×「事業会社での事業開発実務」×「身銭での投資・起業経験」。 足掛け38年にわたりプライム上場企業を中心に300近いプロジェクトを主導。 ✅パスファインダーズ社は大企業・中堅企業向けの事業開発・事業戦略策定にフォーカスした戦略コンサルティング会社。AIとデータサイエンス技術によるDX化を支援する「ADXサービス」を展開中。https://www.pathfinders.co.jp/ ✅第二創業期の中小企業向けの経営戦略研究会『羅針盤倶楽部』を主宰。https://www.facebook.com/rashimbanclub/
