高齢者住宅を、どのように評価すべきか?

2023.02.07

ライフ・ソーシャル

高齢者住宅を、どのように評価すべきか?

川口 雅裕
NPO法人・老いの工学研究所 理事長

高齢者とファミリーでは、そのニーズは大きく異なります。

私は、高齢者住宅を「ゼロ次予防」という視点で評価すべきと考えています。

「ゼロ次予防」について少し説明すると、予防には段階があり、「1次予防」は生活習慣をよく保つことや予防接種などを指し、「2次予防」は病気や不調を早期発見するための健康診断や人間ドッグの受診、「3次予防」は病気治療後の身体機能の悪化を防ぐためのリハビリや、再発防止のためのケアのことです。

これらに対し、「ゼロ次予防」は根本的な予防として世界保健機関(WHO)が提唱したもので、意識したり努力したりしなくても、健康につながる行動や習慣になるような環境に身を置くことです。高齢者住宅の観点でいえば、知らぬ間に病気やけがを避け、健康が維持できるような環境で暮らすことです。若い人たちと違い、病気やけがをすると元の状態に戻りにくい高齢者にとって重要な考え方であり、本人にも、高齢の親を案じる子にも非常に魅力的なことだろうと思います。

家の周辺に、平たんで気持ちのいい道があれば、ウオーキングや散歩をしようという気が湧いてきます。スーパーがすぐ近くにあれば、食材を買いに行って、自分で料理を作って食べる習慣ができます。知人や友人が近くに住んでいれば、集まって会話をする機会も増えるでしょう。魅力あるコンテンツやイベントが共用部で行われれば、部屋に閉じこもることもなくなります。

コミュニティー運営者における介入や誘い、とりなしが上手に行われているかどうかも非常に重要です。高齢者の健康維持には、「運動・栄養(食事)・交流」の3つが重要であるとされますが、このような環境に住まうことで、頑張って取り組まなくても自然にこの3つが可能になり、気付いてみたらよい生活習慣が続いている――。これが「ゼロ次予防」であり、優れた高齢者住宅の条件といえます。

また、「家の中に段差や階段が少ない」「家の温度が安定している(熱中症やヒートショックの危険が少ない)」「体調急変時などの際、助けがすぐ呼べる」「手伝いを頼める人がいるので、危険な作業をしなくていい」といったことも、そこに住んでいるだけで、病気やけがを未然に防げるわけですから、「ゼロ次予防」といってよいでしょう。

このような条件がそろい、何年か経過したときに、健康を維持しながら以前と同じように暮らせていることに気付く――。そんな「ゼロ次予防」の機能がしっかり組み込まれているかどうか。これが、高齢者住宅の真の価値であり、評価基準とすべきだろうと思います。

高齢者向け講演会 川口雅裕

Ads by Google

この記事が気に入ったらいいね!しよう
INSIGHT NOW!の最新記事をお届けします

川口 雅裕

NPO法人・老いの工学研究所 理事長

「高齢社会、高齢期のライフスタイル」と「組織人事関連(組織開発・人材育成・人事マネジメント・働き方改革など」)をテーマとした講演を行っています。

フォロー フォローして川口 雅裕の新着記事を受け取る

一歩先を行く最新ビジネス記事を受け取る

ログイン

この機能をご利用いただくにはログインが必要です。

ご登録いただいたメールアドレス、パスワードを入力してログインしてください。

パスワードをお忘れの方

フェイスブックのアカウントでもログインできます。

INSIGHT NOW!のご利用規約プライバシーポリシーーが適用されます。
INSIGHT NOW!が無断でタイムラインに投稿することはありません。