法制化が見えない日本の「尊厳死」

2023.01.16

ライフ・ソーシャル

法制化が見えない日本の「尊厳死」

川口 雅裕
NPO法人・老いの工学研究所 理事長

放置されている死の問題

文藝春秋12月号に、「ゴダール『安楽死』の瞬間」(宮下洋一氏)という記事がありました。「勝手にしやがれ」(1960年)などで知られる映画監督、ジャン=リュック・ゴダール氏が、スイスの団体の支援を得て、2022年9月、薬物を服用して安楽死した件に関するレポートです。

記事では、「日本では安楽死を検討する方向にはまだ動いていないが、個人の生き方(つまり「死に方」)を全面的に尊重する欧米社会との違いによるところが大きい。(中略)安楽死とは本人の希望だけでなく、残された家族の受け止め方も重要なはずである。周囲の気持ちをおもんばかる日本では、ゴダールのように『個の生き方』を貫くことは簡単ではない」と、この問題の難しさを指摘しています。

とはいえ、日本の高齢者の死の捉え方、死への向き合い方はかなり変化してきました。葬儀は身内だけで済ませるケースが増え、葬儀をしない「直葬」という形も出てきています。「墓じまい」や散骨を望む人が増えているのも、自分の命を自分だけのものとして、残された家族への影響を最小限にしようとする意思の表れとみていいでしょう。すっかり一般化した「終活」は死を前提にした取り組みですから、死という言葉を口にするだけで「縁起が悪い」と考え、思考や対話から排除していたような、ひと昔前とは様変わりしています。

実際、筆者に次のような手紙が届いたことがあります。(一部省略)

=====

「日本では、『本人の意思』や『家族の要望』は無視され、『命は大切なもの』『命はかけがえのないもの』という一方的な倫理観から、徹底的に『延命治療』が施されます。一方で、苦しみに耐えながら生き永らえている本人にとって、その措置が本当に人間の“尊厳”に照らした“倫理”なのだろうか? “幸せ”なのだろうか?

私事ではありますが、過去15年の間に、『延命治療』により両親と姉の3人の、病魔に冒され、哀れで悲しく、苦しみながらの最期をみとった経験を持っております。かくいう私も現在83歳、いつなんどき、前記のような状況になるかもしれない年齢になっています。

『あなたの命はあなただけのものではないよ、親も子もきょうだいもいるよ、皆を悲しませてはいけないよ、元気で長生きしなくちゃ、命は大事にしなくちゃ…』と、もっともらしく言われています。しかし、苦しみと絶望の中にいる本人にとっての本音は、『社会や親きょうだいはどうでもいい、早く楽にしてくれ、早く死なせてくれ!』だと思います。

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川口 雅裕

NPO法人・老いの工学研究所 理事長

高齢期の心身の健康や幸福感に関する研究者。暮らす環境や生活スタイルに焦点を当て、単なる体の健康だけでなく、暮らし全体、人生全体という広い視野から、ポジティブになれるたくさんのエビデンスとともに、高齢者にエールを送る講演を行っています。

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