高齢者にとっての、「長く住んできた家」と「住み慣れた場所」の違い。

2022.12.01

ライフ・ソーシャル

高齢者にとっての、「長く住んできた家」と「住み慣れた場所」の違い。

川口 雅裕
NPO法人・老いの工学研究所 理事長

「住み慣れた場所」をつくるという発想

「人生の最後は、住み慣れた場所で」という願いは、多くの高齢者に共通しています。加齢による体の不調はあるにせよ、いや、あるからこそストレスを感じない場所で、穏やかに暮らしたいと思うのは当然ですし、「リロケーション・ダメージ」(高齢になってから環境を変えることによって生じる心身の不調)と呼ばれる現象も昔から指摘されています。

高齢の親を案じる子どもが、自分たちとの同居や近居を勧めても、頑として今の自宅から動かないという話はよくありますが、これも、環境を変えることへの不安が親御さんにあるからでしょう。

だからといって、「高齢者は長く暮らしてきた場所に住み続けるべきだ」と簡単に結論づけることはできません。環境も本人も変化していくからです。便利な暮らしに欠かせないスーパーや病院、金融機関の有無、周りに住んでいる人の数や年代、地域の人間関係の質・量など、環境は必ず変化していきます。

また、家の中の小さな段差や部屋の温度差、周囲の坂道や階段、利便施設への距離などは、若い頃は全く気にならなかったとしても、年を取ると危険や不便を感じるようになってきます。転居によるリロケーション・ダメージも危ないですが、「住み慣れた場所」にも大いにリスクがあるということです。

そのような危険な要素がある「住み慣れた場所」で暮らしていて、自宅での事故や急病への対処が遅れたり、閉じこもり生活によって衰えが進んでしまったりした結果、老人介護施設などに入らざるを得ず、次にそこでの慣れない生活でリロケーション・ダメージを受けてしまう場合も少なくありません。ダメージをダブルで受けるようなもので、最も避けたいケースです。

「住み慣れた場所」という言葉には、「最近まで住んでいた居住年数が長い所」といった意味合い以外に、「住み心地がよい」というニュアンスが含まれています。だから、「なぜ、わざわざ住み替えないといけないのか」という反論に使われるわけですが、長年、住んできたからといって、住み心地がいいとは限りません。住んでいる間に、その環境は不便や不安、危険を含むものに変化していきますし、近年では、防災や防犯も高齢者の心配事になっているからです。

●高齢者にとっての「良い住まい」は?

高齢者にとって住み心地がよい場所の条件は、筆者が思うに、次の6つです。

まず、ハード(建物や設備)とソフト(人やサービス)の両面での安全・安心。顔見知りが何人もおり、声掛け、あいさつ、立ち話、情報交換が日常的に行えること。家の中も地域についてもよく分かっており、迷いや遠慮なく暮らせること。生活に必要な物を調達する施設が近くにあること。使い慣れた物や設備、思い出や懐かしさを感じる物に囲まれていること。そして、趣味や運動などの活動の場が近くにあり、仲間もいて継続しやすいこと――。

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川口 雅裕

NPO法人・老いの工学研究所 理事長

高齢期の心身の健康や幸福感に関する研究者。暮らす環境や生活スタイルに焦点を当て、単なる体の健康だけでなく、暮らし全体、人生全体という広い視野から、ポジティブになれるたくさんのエビデンスとともに、高齢者にエールを送る講演を行っています。

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