高齢者にとっての、「長く住んできた家」と「住み慣れた場所」の違い。

2022.12.01

ライフ・ソーシャル

高齢者にとっての、「長く住んできた家」と「住み慣れた場所」の違い。

川口 雅裕
NPO法人・老いの工学研究所 理事長

「住み慣れた場所」をつくるという発想

昔は、「住み慣れた場所」にこれら6つの条件がそろっていたから、住み心地もよかったのでしょうが、今やそうではありません。住み慣れた場所の住み心地がよいというのは、もはや昔の話といえるでしょう。

高齢期の長さの問題も無視できません。厚生労働省の「簡易生命表」(2021年)によれば、65歳まで健康だったら、平均的に男性は85歳まで、女性は90歳まで生きる時代となりました。昔のような短い老後なら、不便でも長く住んできた場所で我慢して暮らすという選択肢もあり得ますが、平均で20〜25年という長い期間を考えれば、今まで住んできた場所の住み心地を見つめ直し、これからの高齢期にふさわしい場所を改めて考えるべきでしょう。子が親に住み替えを勧めるケースが増えているのも、長い高齢期を見据えてのアドバイスなのだと思います。

●住み慣れた場所を「つくる」という発想

もちろん高齢者にも、長い高齢期を視野に入れて住み替えを検討する人は増えていて、「いつ、住み替えるのがいいか?」という質問をよく頂くようになりました。

筆者は必ず「早い方がいい」と答えます。理由は何よりも、事故や体調急変はいつ起こるか分からない(明日かもしれない)からですが、もう一つは、元気なうちの方が環境変化に適応する力があるからです。

若い人と同じように、しばらくすれば「住めば都」となり、先述の6条件がそろっていれば、それまでの「住み慣れた場所」よりはるかに楽しく過ごせる人も多いでしょう。逆に、適応する力が衰えてから環境を変えると、なかなかなじめず、リロケーション・ダメージを受ける危険性が高くなってしまいます。

早めの住み替えは、「人生の最後は、住み慣れた場所で」という願いをかなえる行動でもあります。早く住み替えるほど、その環境に適応しやすいので、人生の最終盤を過ごせる住み慣れた場所をつくることができるからです。切羽詰まってから住み替えたのでは、住み慣れた場所にはなりません。

高齢者には今、これまで長く住んできた「住み慣れた場所」に固執するのではなく、これからの長い期間を考慮に入れて、「住み慣れた場所を“つくる”」という発想の転換が求められていると思います。


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川口 雅裕

NPO法人・老いの工学研究所 理事長

「高齢社会、高齢期のライフスタイル」と「組織人事関連(組織開発・人材育成・人事マネジメント・働き方改革など」)をテーマとした講演を行っています。

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