日本の夕闇は近いぜよ:円安と民族の低下

2022.10.27

ライフ・ソーシャル

日本の夕闇は近いぜよ:円安と民族の低下

純丘曜彰 教授博士
大阪芸術大学 哲学教授

/国内に貧困が増大すれば、富裕層でも零落する。資産を海外に逃がしても、「日本人」である限り、ああ、あの貧乏で荒廃した国でなにかズルいことでもやってガメた因業な金持ちか、と侮られるだけ。/

戦前はひどかった。なんでもお国のため。その反動で、この「国」では、いまや、なんでも個人の自由。それはそれでけっこうなのだが、世界の中では「民族」としての力がものを言う。だが、それがあまりに急激に衰えていっているのではないか。

ふだん、「民族」としての日本人などということは意識すらしまい。だが、海外に出れば、パスポートを出すたび、それを思い出す。それも、ちょっと前まで、ある意味、日本人というだけで優遇された。同じように旅行している韓国人や中国人より良い部屋、良い席に案内された。実際、カネ払いがいい。むやみに値切ったりしないし、清潔で、静謐で、揉めごとも少ない。まさに御大尽の上得意客。

それもこれも、経済力と国民性。もちろん、ビジネスなどとなると、優柔不断ではっきりしない、組織でゴソゴソやってばかりいて、交渉の手応えが無い、などとも揶揄されたが、風向き次第でコロコロと方針を変える他の国民と較べれば、「武士道」よろしく日本人は長年の信義に固い、として、世界に親日家も多かった。そして、そういう長年の民族としての信用の積み上げがあればこそ、観光客でも、その信用の恩恵に与ることができた。

しかるに、いま、日本に限らず、グローバル化とやらで、「民族」としての結束や団結、協力は廃れるばかり。近代化著しい新興国では、国際的な富裕層が未来都市のような街中で豪奢な生活を享受する一方、いまだにこれかと思うようなスラムが周辺に放置されている。いや、先進国とされた大国でも、かつて中間層の生活を支えた石炭や鉄鉱、製造業などの地域は衰退し、都市部にも昼間からクラックヘッドたちがあてどなく佇むダウンタウンが拡大している。

近ごろ、「親ガチャ」などと言うように、日本でも社会階層の固定分離が進み、政治も企業も世襲だらけ。自分が当選するためなら、国を売る悪魔との契約も辞さない政治家もいるとか。そうでなくても、補助金や助成金まで、儲けはまるまるポッケに入れて、豪邸を建て、大型車を何台も買って、従業員やパートが低賃金の生活苦で喘いでいても、なんの心の痛みも感じないスクルージのような中小企業の経営者の話もよく聞く。

だが、「国力」というのは、健康と同じ。国内に疫病がはやれば、富裕層でも罹患する。国内に貧困が増大すれば、富裕層でも零落する。いや、資産は海外に逃がしたから問題ない、などいうのは、浅はかな考え。いくらカネがあっても、日本が「民族」としての地位信用を失墜させれば、どこの国へ出て行っても、「日本人」である限り、ああ、あの貧乏で荒廃した国でなにかズルいことでもやってガメた因業な金持ちか、と侮られるだけ。

国のために個人を犠牲にしてはならない。だが、日本人が日本人として協力しあって、国力を、信用と品格を高めるのでなければ、日本人である限り、どこにも逃げるところなど無い。渋沢栄一や五代友厚など、幕末の下級武士たちが、倒幕以上に経世済民に奔走して、日本を世界の中の存在たらしめた、あの努力を忘れ、個人の私利に走って同胞の国富を損じてばかりいれば、日本人すべてがやがて夕闇に沈む。

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純丘曜彰 教授博士

大阪芸術大学 哲学教授

美術博士(東京藝大)、文学修士(東大)。東大卒。テレビ朝日ブレーン として『朝まで生テレビ!』を立ち上げ、東海大学総合経営学部准教授、グーテンベルク大学メディア学部客員教授などを経て現職。

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