損切り売抜けは早い者勝ち:カエルを茹でる休業補償金

2021.02.03

ライフ・ソーシャル

損切り売抜けは早い者勝ち:カエルを茹でる休業補償金

純丘曜彰 教授博士
大阪芸術大学 哲学教授

/ただ我慢してずっと待っていも、たぶん世界はもうあなたをけっしてまた迎えに来たりはしない。たとえ再開するにしても、きっともっと若手があなたに取って代わるだろう。/

商店街もそうだ。鉄道がやってくると、我先に駅前に店を出した。それが、自動車社会にになってロードサイドの大型店やショッピングモールに顧客が移り、鉄道の本数も激減して、通学高校生が朝夕に通り抜けるだけ。こんなシャッター通り、やはりもはやだれも買い手がつかない。団塊世代の老人だらけでバスしか通っていない郊外型住宅地、所有者不明、管理費踏み倒しだらけで廃墟化しつつあるマンションなども似たようなもの。

いま起こっていることも同じだ。文明論として見れば、ナポレオン時代から二百年、地方から大勢の均一の人員を集め、工場や会社で働かせ、かれらにまた製品や娯楽を売りつける、という大衆社会のソシアルモデルが終わりつつある。ネットは、新聞やテレビ以上の超巨大な複製装置であり、製品や娯楽の生産に、もはや大勢の均一の人員など必要としない。1対全体、で出来てしまう。だから、少数の超富豪と大量の大貧民という経済格差を生じる。

そして、このことは、文明とともに出現した都市という数千年来のパラダイムさえも終わせるのかもしれない。都市は、言わば寝に帰るだけの蜂の巣のような「子供部屋」と、飲食店や娯楽施設という「共用部分」でできている。つまり、もともと生活体として、シェアハウスのような融合構造になっている。しかし、都市の単身者ないし核家族が、生産と消費を兼ねて経済を廻し、それが地方を巻き込む、という経済エンジンが、ネットという超巨大複製装置で不要になったとき、それをになってきた単身者や核家族の生活を支える飲食店や娯楽施設も当然、不要になる。

そういえば、関東軍ともゆかりの深い大企業が本社ビルを売るとのこと。「休業補償金」が多いとか、少ないとか、そういう話こそ、まさに目眩まし。みなが気づいていないいまならまだ、たしかに損切り売抜けできる。いや、気づかれないように、むしろあれこれ良い知らせのチャフをばらまいて、狼狽売りの大暴落が起きないように世論操作しながら、上級国民だけは、隠密裏にうまく財産を処分し、腐って崩れる前の都市を棄てて逃げ出す。

……なんていうのは、ダレヤノンだかお宝ハンターだかの陰謀論にちがいない。ワクチンはすぐに普及するし、集団免疫はできるし、オリンピックも開催して、人類は勝利、勝利。日本中が go to で、飲食店や観光地もウハウハになる。おまけに、カジノだの、万博だの、クールジャパンだのもあるから、インバウンドで外国人がわんさかやってきて、日本は、世界のカネが落ちまくり、もうえらい空前絶後の繁栄を迎えるにちがいない。それまでの我慢、と、信じれば、とりあえずまあ、こんな状況でも不安はきれいに無くなる。

とはいえ、現実の激変そのものは、けっして止められはしない。ただ我慢してずっと待っていも、たぶん世界はもうあなたをけっしてまた迎えに来たりはしない。たとえ再開するにしても、きっともっと若手があなたに取って代わるだろう。だから、むしろこの機会にいっそその「休業補償金」であれこれ清算し、文字通り「人間休業」でもして、別の人生を考えるのも、後半生をムダにしないために大切な方策かもしれない。まあ、よう知らんけどね。

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純丘曜彰 教授博士

大阪芸術大学 哲学教授

美術博士(東京藝大)、文学修士(東大)。東大卒。テレビ朝日ブレーン として『朝まで生テレビ!』を立ち上げ、東海大学総合経営学部准教授、グーテンベルク大学メディア学部客員教授などを経て現職。

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