サービス提供者に犠牲を強いる「おもてなし」というブラック労働の素

2020.01.31

組織・人材

サービス提供者に犠牲を強いる「おもてなし」というブラック労働の素

増沢 隆太
株式会社RMロンドンパートナーズ  東北大学特任教授/人事コンサルタント

新型肺炎が猛威を振るう中でも接客しなければならないサービス業界。ドタキャンどころか無断キャンで何十万もの損害を出す宿泊業界。マスクしたり、違約金や前払いなど、「お客様に迷惑」をかけるのは気が引けるとのこと。東京オリンピック誘致で世界に宣伝した「おもてなし」の心はブラック労働につながっていないでしょうか。

無断キャンで数十万円の損害

ホテルやレストランなどでの無断キャンセルがたびたびニュースでも取り上げられます。予約に基づいて何十人分もの食材を仕入れ、当日は席も確保したにも関わらず、予約時間になっても誰も現れず、予約者に電話しても使われていなかったり、通じないため、店側は全損害を泣き寝入りすることになります。

インターネットで予約が簡単になり、スマホで即座に予約は完了できる店もたくさんあります。「相手の好みがわからない時に複数ジャンルの店を予約しておき、スマートに当日選べる」等といったヨタ情報をツイートした人は炎上するなど、一定の良識はあるかも知れません。一方で開店日に貸し切り予約が入ったが結局誰も現れなかった等のニュースはけっこうよく見ます。

ノーショーとも呼ぶようですが、この手の無断キャンにおいてよくある声に、「キャンセル料を請求しろ」「外国のようにクレジットカードで事前決済すべき」などがあります。私も同意ですが、それに対し店側からは「お客様に負担がかかる」「迷惑かけたくない」という反応があります。

コロナウイルス対応

新型肺炎を起こすコロナウイルスだけでなく、インフルエンザなど、飛沫感染する病気は毎年あります。実際コロナウイルスに感染した人はバスの運転手のように、直接お客さんと空間をともにしていました。医療関係者だけでなく、接客で不特定多数のお客さんと触れなければならないサービス業界は、こうした罹患リスクに常にさらされます。

マスクは絶対的防御ではなくとも、リスクを減らすために一定の効果はありますが、サービス業界ではなぜか「マスクは(お客様に)失礼」という感覚があるとのことで、デパートやホテルのような高級店舗でのマスク着用は奨励されていません。さすがにコロナウイルス蔓延で、マスク着用を店側も認めたということがニュースになるくらい、サービス業界の姿勢が消極的なことは明らかだと思います。

飲食店にしろ、ホテル・デパートにしろ、お客様にご迷惑をかけたり失礼があってはならないという姿勢が一貫しているのはすごいなと感じます。ちなみに私が愛用する飲食店(ラーメン屋さんとか定食屋さん)や店舗では、普段からレジのおばさんたちもマスク着用の方が多いので、お店の人のマスクには一切違和感はありません。

サービス提供者に犠牲を強いる「お・も・て・な・し」

全国民が待ち望む東京オリンピックですが、その招致スピーチで滝川クリステルさんが放った言葉「おもてなし」は、日本のホスピタリティ、メンタリティの優れた点を表す言葉として注目されました。おカネではなく心構えからして違うのが、日本という国の行き届いたサービスなのでしょう。

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増沢 隆太

株式会社RMロンドンパートナーズ  東北大学特任教授/人事コンサルタント

芸能人から政治家まで、話題の謝罪会見のたびにテレビや新聞で、謝罪の専門家と呼ばれコメントしていますが、実はコミュニケーション専門家であり、人と組織の課題に取組むコンサルタントで大学教授です。 謝罪に限らず、企業や団体組織のあらゆる危機管理や危機対応コミュニケーションについて語っていきます。特に最近はハラスメント研修や講演で、民間企業だけでなく巨大官公庁などまで、幅広く呼ばれています。 大学や企業でコミュニケーション、キャリアに関する講演や個人カウンセリングも行っています。

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