「母性的な会社」と「マザコン社員」(【連載16】新しい「日本的人事論」)

画像: waka8

2018.10.10

組織・人材

「母性的な会社」と「マザコン社員」(【連載16】新しい「日本的人事論」)

川口 雅裕
NPO法人・老いの工学研究所 理事長

組織・人事に関わる全ての施策は、日本人の特性や自社の独自性への洞察なしには機能しない。それは、OSが違えば、アプリが動作しないのと同じである。欧米の真似でもない、うまくいっている会社の真似でもない、日本企業において本当に機能する組織・人事の考え方や施策について思索・指南する連載。

●母性的な日本企業

このような社会だから、日本の会社が母性的であるのも当然だろう。処遇システムは、「同一属性・同一期待・同一処遇」となる。同じ属性(性別、職階、年次など)であれば、同じように期待をされ、同じように処遇される。能力にも適性にも個人差があるのだが、それは軽視され、多少の失敗を犯してもそれまでと変わらず期待されつづける。「皆がかわいい」「皆がいい子」という母性的な処遇システムである。正社員という日本独特の無期雇用制度は、母親がすべての子供にいつまでも期待し続けるのと似ている。「無限定な働き方」も同様だ。場の均衡を保つことに価値を置いているのだから、個々の職務や責任を明確にする自立した働き方よりも、そのときどきの状況に応じて皆が助け合い、言われれば何でもやる、どこへでも行くような働き方が奨励されるのは自然なことだ。年功的処遇も、場の均衡を保つための序列づけとしては合理的である。

マネジャーは、母親のようになる。どのメンバーも同じようにかわいいし、全員に同じように期待し、全員にチャンスを与え、全員に成長してもらいたいと思っている。仕事の与え方や接し方は、能力差や適性ではなく、年次や属性などによって決まる「序列」に応じて変える。場の均衡を保つことに高い価値を置いているからだ。多様であるより、同質であるほうが場の均衡を保ちやすいから、違いには焦点を当てないようにする。メンバーの一人ひとりが落ちこぼれないように気を配るのが大切であると考えるので、高い目標は掲げないし、違いによって生じるシナジーも生まれにくい。マネジャーの目線は、常に下向きであり、力は常に底上げのために使われる。

●母性的であることの結果

このような日本企業においては、抑制的言動を強いられることによるストレスが大きい。各々の違いによる軋轢がストレスとなる欧米の組織とは、対照的だ。思ったこと、言いたいこと、やりたいことをそのまま言動に移せない状況がストレスとなる。どれだけ優れた能力であっても結果を残しても、母親が他の子供に配慮して褒めすぎないようにするのと同じで、飛びぬけて良い評価をしたり選抜的な処遇や育成をしたりはしない。本人にも、胸を張って「どうだ」と言ったりはせず、喜びを顔に出したりもせず、謙虚に「まだまだです」「みなさんのお蔭です」と言う姿勢が求められる。

コミュニケーションも複雑になる。全員が同じように期待され、皆で場の均衡を保ち続けるためには、同じ情報を皆で共有している状態を作らねばならないから、報告・連絡・相談の量が非常に多くなる。同じ部署だけでなく、関係する部署や担当者などにも伝えなければならないし、その順序や伝え方にも気を配らねばならないから、相当に高度な“仕事”であったたりする。情報流通の達人になることが、出世の近道だったりするのはそのせいだ。職務や責任が明確にされている結果、誰に何を伝えればいいかがわかりやすい欧米企業とは対照的である。

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川口 雅裕

NPO法人・老いの工学研究所 理事長

「高齢社会、高齢期のライフスタイル」と「組織人事関連(組織開発・人材育成・人事マネジメント・働き方改革など」)をテーマとした講演を行っています。

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